戦争が終わり三日後、そして、相沢祐一と秋桜麻衣子が捕まってからも三日後。

今日も今日とて外は雪が降っていたが、そんな事は知らない二人は今日も今日とて暇を潰していた。

 

「なぁ、麻衣子」

「ん? 何よ?」

 

カノン城の地下、肌寒い石の壁に囲まれながら祐一は対面にいる麻衣子へと話しかける。

対して麻衣子も暇なのか腕を枕にして横になりながら怠そうに答える。

 

「逃げようか?」

「いいけど、また罪状増えるわね」

 

祐一の提案に、麻衣子は即答した。

すると祐一は唸り声をあげて頭を抱える。

 

「今どのくらいあったっけ?」

「殺人未遂に器物破損、他国の罪も合わせるなら強盗未遂、誘拐容疑、えーっと、禁術使用容疑に国家反逆罪に……」

 

……祐一は片腕をあげて麻衣子を制す。

麻衣子も慣れたものでそれ以上は続けず話止める。

 

「……もういい、気が滅入る」

「諦めなさい、ハンターなんて長年やってれば罪状の一つや二つはつくものでしょ」

「一つや二つだったらな……」

 

そう、確かに長いことハンターをやっていれば罪状の一つや二つぐらいは付く事がある。

器物破損などは可愛いもので中には暗殺業などの裏仕事を引き受けるハンターもいるので殺人罪、強盗罪などが付く場合もある。

大きな所では国家反逆罪や要人暗殺罪、そして国内で一番大きい罪が国王暗殺罪である。

ちなみに、国王の場合は正面から切り伏せたとしても暗殺罪となる。

どのような場合でも国王が殺されること自体あってはならないことだし、もし仮にあったとしてもそれは必ず暗殺ということにしなくてはいけない。

何故ならば、不意をついた攻撃でもないのに国王を殺されましたでは民衆は納得しないし信用も失う。

それにその後の混乱を鑑みるに絶望的報告よりは悲観的報告の方が民衆への対応がし易いのだ。

 

「―――はぁ、暇だなぁ」

「………ふぅ、お腹減ったなぁ」

 

二人のため息は……静かな牢屋内に合わさって木霊した。

 

 

 

 

ロードナイツ

 

第四十話

「道標を探して」

 

 

 

 

―――雪がカノンへと降り続ける。

傍観者達の最後の決戦になった広場には変わらず修復されていない地面に白く化粧される。

まるで、戦いの事を忘れ去れるかのように、汚れたものを綺麗にするかの如く。

そして……そんな戦場だった場所に、一人の男が立っていた。

顔には"銀の仮面"、背には剥き身の大剣、そして……腰には一振りの刀を差している青年だった。

異常な風貌でありながら、何処か風格を漂わせる青年は一つ、ため息をついた。

 

「あの馬鹿……また使ったのか……」

 

それは、まるで父親のような、兄弟のような、親友のような、暖かみがある声だった。

青年は地面を見つめながら軽く肩に積もっていた雪を払う。

そして―――同時に軽く地面に降り積もった雪を蹴り払った。

 

「―――これで遠慮無く殺せるな、馬鹿が」

 

青年は、仮面越しに小さく苦笑した。

 

「何―――笑ってるんです?」

 

背後、広場の入り口にたった一人の少女は不思議そうにそう呼びかけた。

青年はその声を聞き、ゆっくりと振り返る。

そこにいたのは灰色がかった長髪に黒いリボンが印象的な少女だった。

少女はどうでもよさように雪が振り続ける広場に立っている青年を見つめ続けていた。

 

「あなたが笑うところなんて初めて見ましたよ、笑えるんですね」

「……自分でも驚いていた所だ」

 

青年は呟くようにそう言うといつもの無表情に戻る。

……もっとも仮面を被っている為に傍目には解らない程度の変化ではあるが。

それでも少女にはその変化がわかったようで、しかし関心なさそうに眺めているだけだ。

 

「―――で、こんな辺境にまで来て何をするんです?」

「……君は"断罪者"が雇った"ハンター"だ、これからする事に黙って協力して欲しい

「…………面倒くさいけど、大金貰ってますし協力はしましょう」

「助かる、"書庫"はこの国では最高レベルの希少価値があるだろうからな」

 

そう言って青年は黙って歩き始める。

書庫と呼ばれた少女は青年の背中を数秒見つめてから、ため息をついて続いて歩き始めた。

途中、青年達の行く道に所々未だ修復の目処が立っていない住宅街が続く。

流石に戦争があっただけはある、数日で直るような規模の戦闘ではなかった証拠だ。

そして、通り過ぎる住民達の疲れたような顔を見渡しながら少女は面倒くさそうに曇った空を見上げる。

 

「一つだけ答えてくれませんか? 一体この国に何しに来たんですか?」

 

少女は黙々と歩きにくい雪上を歩き続けていた青年の背中に向けてそう問う。

すると青年は、少女と同じように空を見上げながら呟いた。

 

「―――過去の約束を守りに来ただけだ」

 

 

 

 

カノン学園の屋上、雪が降り積もるだけの広場に北川潤は寝そべっていた。

北川の周りには何故か雪が降っておらず、白い校舎の床が見えていた。

 

「……三日か、あれから」

 

三日、あの戦争紛いの戦闘からまだたった三日しか経ってない。

だが町並は着々と戻っている所を見ると混乱はしているが復興は問題なく進んでいる証拠だろう。

自分はあの戦争で何が出来たのか、自分はあの戦いで何を学んだのか。

そして……自分はこれからどうするのか。

あれだけの戦争だ、人々の心のあり方を変えるのは当然の成り行きだろう。

それだけ戦争という名の殺し合いは人々に様々な傷を残した。

 

「しかし……学園もいつになったら再開するのかねぇ」

 

現在カノン学園は人数の減少や貴族の抗議、そして経済面的な理由で閉鎖している。

復学の目処は立っていない、だがそれでも北川は毎日学園へと通っていた。

―――理由は沢山ある、しかし一番大きな理由は、やはり自分の気持ちの整理がつくまで一人になりたいという心情からだろう。

例えば、カノン学園を卒業した後、北川家を継ぐか権利を放棄するかなど重い問題がある。

北川家ほどの大きな家柄の長男としては軽々しく権利を放棄する事なんて出来ないし、もしかしたら放棄した瞬間殺されそうになるかもしれない。

まあ……今の北川家で北川潤に勝てる人間がいるとすれば隠居した祖母である北川桔梗だけだろうが。

 

「確かあの傍観者はハンターだっけか?」

 

ハンターもいいかもしれないっと北川は冗談半分に呟いた。

そう簡単なものではないだろうが、夢として見るのに一番現実的な職業だろう。

世界を廻る職業であり、客商売でその日暮らしの仕事人。

それが人々が想像するハンターであり、そして、事実ではある。

もっとも、人々の想像は一部のハンターのみに適応される現実であり、全てではない。

だが、ハンターという職業をしている人間達にしか解らない苦労はやはり普通の人間に解る筈がない。

北川もそんな事は重々承知だった、恐らく……大人しく家を継いだ方がいいと思う時も来るだろう。

 

「難しいな……」

 

一生の事だ、悩みすぎていけない事はない。

自分の人生は一度しかない、だからこそ……自分はキチンと悩み、考えなくてはいけないだろう。

魔法使いで一生暮らす事も出来る、冒険する事も出来る。

選べる自由があること自体幸せな事だが、北川はその自由をどうせなら精一杯活用してやろうと思っていた。

 

「そういえば……"あいつ"は異端狩りのハンター志望だっけか」

 

異端狩り、それは賞金首になっている魔物退治を専門とする戦闘職。

吸血鬼や竜族などの幻想種レベルの魔物達を獲物とするある意味ハンターの中の傭兵的位置にいる。

ちなみに、異端狩りのハンターは表には名前が出ておらず正体などは詳しくはわかっていない。

魔法だけでは無く、剣や高位の武器を持って初めて可能になる職業なので異端狩りになる事はとても難しいだろう。

それほどの条件がありながら、成りたがる人間は多い。

一部の異常な人間達を抜かせば、異端狩りのハンターこそが人間達の頂点とも言われるぐらいだ。

もっとも、それが全てではないのだが……。

 

「まあ、まだ時間はあるし……ゆっくり考えるか……」

 

―――そう呟いて、北川は静かに目を瞑った。

 

 

 

 

「…………二人、か」

「本当に? 誰? もしかして"混沌なる悪魔"とか?」

 

「……馬鹿を言うな、"アレ"は今でも七千もの剣達が突き刺している、動ける筈がない」

「だったら……"人類破壊兵器"が生き返って来たとか?」

 

「それもない、恐らく……この気配は"断罪者"か"秘女教皇"だろう、そしてもう一つは……"書庫"だな」

「……何で解るの?」

 

「奴らは前の戦争で実際に共闘したり敵対したりしたからな、気配を覚えている」

「便利だね、流石は"剣の支配者"」

 

「……そうでもないさ、"魔剣使い"殿」

「でもそうすると……カノンには現在5人もの起源者がいるんだ、水瀬秋子を入れると6人」

 

「…………悪夢だな、流石は元凶たる否定者がいる国なだけはある」

「どうしようか、先制攻撃でもしとく? "支配"と"制圧"なら"断罪"と"書庫"に負ける気はしないけど」

 

「奴らを舐めるな、特に"断罪"の方は戦いようによっては否定や支配をも超えるかもしれない」

「……へー、益々戦いたくなったよ」

 

「諦めろ、無駄な好戦は無意味だ、流石に戦争終わりのこの地を灰燼に化したくは無い」

「まあ待遇はいいしね、食べ物も美味しいし、あの"否定者"は簡単に捕まえられたし」

 

「……あぁ、本当に簡単だったな、まるでワザと捕まったみたいだった」

「ワザとでしょ、落ち目の幻想神種にあれほど時間をかけて戦ってるぐらいだもん」

 

「お前は幻想神種と対峙したことがないからそう言えるんだ、奴らは起源を持つ強力な兵器だ、容易にはいかないさ」

「本当に? "魔剣使い"は確かに"剣の支配者"には負けちゃうけど"否定者"にまで負けたつもりはないよ?」

 

「……"支配"に負ける時点で"否定"に敵う筈がない、奴は異端であり異常だ、下手をしたら……」

「下手をしたら……何?」

 

「いや……何でもない」

「気になる〜、"支配"がそこまで過大評価する"否定"の正体って何なのよ〜」

 

「正体……か、それなら単純明快だな」

「何々? 教えてよ」

 

 

 

 

「…………一言で言うなら、"世界の終わりだ"」

 

 

 

 

そして―――それから丁度四日後の深夜。

カノンでは、有り得ない奇跡が舞い降りる事になる。

物語の幕は、今一度……開こうとしていた。

 

 

 

to be continue……

 

 

 

 

 

 

あとがき

うっわ、短くて微妙……(ぇ

レポートとテストが明日一気にあるんで滅茶苦茶暇無いんですが、毎日更新なので更新。

これはエピローグフラグですな、最終話は明日で。

とにかく、一分一秒の時間が惜しいので短めに失礼します(土下座

 

 

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―――第四十話★用語辞典―――

 

―混沌なる悪魔―

別名「悪魔」と呼ばれる戦闘狂、人や魔物などに関係なく襲いかかる。

理性で動く分厄介で、その上意外に賢く魔法や剣など無節操に、そして無理解で使おうとする。

現在では犯した罪の分だけ同じ起源者である剣の支配者の剣をその身に受けてとある場所に監禁されている。

 

―秘女教皇―

起源者の中でも謎の多い起源者。

真理を知っているらしいが詳細は不明、戦闘能力はそれほど高くはないらしい。

過去の戦争にも関わっていたらしいが詳細はやはり不明。