「はぁ……」

 

ここはカノン魔法学園の図書室。

貴重な魔道書が数多く存在し魔法使いのタマゴ達にとってこの上なく新しい魔法を勉強しやすい空間である。

そんな休日返上してまで魔法使いのタマゴ達が集まる図書室で美坂香里(みさかかおり)はため息をついていた。

長く伸ばされたその髪はウェーブがかかっており、その大人びた容姿は街を歩けば10人の内9人は振り返る美人だろう。

そんな彼女は今、とても大きな悩みに頭をかかえていた。

 

「まさか明日の実戦魔法講義の初戦があの川口護(かわぐちまもる)だなんて予定外もいい所よ」

 

彼女にしては珍しく親指の爪を歯で噛み締めるという少し子供っぽい動作をしながら誰にいう事でもなくそう愚痴った。

それもそのはず、明日は大事な生徒達の校内序列を決めるための大事な講義だ。

今現在の彼女の序列は2年生の中で7位、その結果だけ見れば彼女はかなりの実力者なのだが……。

しかし初戦の相手である川口護は序列3位という自分以上の順位である強敵だ。

それに明日の講義が実戦魔法だという事も大きい悩みの種だ。

これがもし、ただの実戦講義だったのならまだ戦う事も出来たかもしれない。

罠を張り、魔道具でも揃えて立ち向かえば多分五分五分の拮抗する勝負が自分でも演じられる。

しかし……、明日の実戦魔法講義は使用出来るのが魔法のみという事なので圧倒的に自分が不利だとわかってしまう。

 

「さて……どうしましょうね……」

 

そう呟いて軽く苦笑する……、余裕はないが自分の考えがどこか可笑しかった。

……やるからには徹底的に、そんな思いで始めた魔法の練習。

これだけは誰にも負けないようにと頑張ってはみたけれど、上には上がいるものだと関心してしまったのは事実なのだ。

別に川口護に限っての件じゃない。

例えば久瀬英貴(くぜひでき)に北川潤(きたがわじゅん)、その他にも未だ知らぬ実力者は沢山いるのだろう。

―――魔法使いも楽じゃないな……っと最近今更ながらに思う。

 

「ま、私は私に出来る事をやるだけよ」

 

そう今一度心に決意し手にするのは一冊の魔道書、付け焼刃ではどうにもならないと思いながらも彼女はその本を黙って読み始めた。

 

 

 

 

ロードナイツ

 

第二話

「魔法使いの憂鬱」

 

 

 

 

「―――久しぶりだね、祐一」

「………え?」

 

雪降る街で出会った目の前の少女はそういうと軽く笑った。

……ん、俺ってこんな知り合いいたっけか?

蒼い髪に少し眠そうな顔は美人と言うか可愛いというか、麻衣子とはまた違った魅力のある少女だと思う。

こんな女の子と知り合ったら簡単には忘れないと思うんだけどな……。

 

「……誰だっけ?」

「ひ、酷いよ〜、祐一私の事忘れちゃったの?」

 

俺の言葉に悲しそうにそう訴えかけてくる少女。

その姿が……昔の誰かに重なる、蒼い髪、眠そうな顔、―――あ!もしかして!!

 

「―――もしかしてお前名雪かっ!?」

「もしかしなくてもそうだよ〜」

「あんた最低ね、女の子の顔ぐらい覚えときなさいよ」

 

麻衣子がそう言うが……仕方ないだろ、7年振りなんだし……。

しかし、これが本当に名雪か?

昔は髪型も違って三つ編みからストレートに、顔だって昔より大人びていて……それでいて昔の面影も残ってる。

いや……なんていうか……うん、可愛くなったと思う。

 

「祐一、本当に私の事忘れちゃったの?」

「はっはっはー、まさか〜、ちゃんと覚えてたよ?」

「本当……?」

「もっちろん! 従兄妹の事を忘れるやつなんているかよ〜」

「………………嘘付け」

 

ボソッと隣で呟くやつは置いておいて取り合えず誤魔化しきった。

まぁ、気を取り直して……。

 

「久しぶり、名雪……7年振りだな」

「……うん、そうだね、もうそんなになるんだ」

「ねぇねぇ、祐一、私にもこの子紹介してよー」

「ん? あぁ、麻衣子って名雪とははじめて会うんだっけ?」

「………? 祐一の知り合い?」

「あぁ、一応な」

 

仕方ない、俺は麻衣子の首根っこを掴み名雪の前に出す。

……その際何か抗議していたが無視しておく。

 

「こいつの名前は秋桜麻衣子、一応俺の幼馴染だ」

「私の名前は秋桜麻衣子ー、よろしくねー、認めたくないけどこいつとは幼馴染です」

「私は水瀬名雪だよ〜、よろしくね、麻衣子ちゃん」

「よろしく〜、えっと? 水瀬さん」

「名雪でいいよ〜」

「そう? それじゃあ名雪ちゃん、うん、いい名前だね♪」

 

そういいながら麻衣子は優しげな笑顔で軽く笑う、……相変わらず初対面の人間には強いな。

―――こいつ、裏の顔を知らない事をいい事に最初に好印象をキープしておくつもりか。

流石戦略家、ここまで完璧に表の顔をされると今でも俺もたまに騙される。

恐るべきは秋桜麻衣子ということか……。

 

「そういえば祐一と麻衣子ちゃんはカノン魔法学園に入学するんだよね?」

「そうだよ、本当は私だけでいいのにこいつがどうしても着いて来たいっていうもんだからね〜」

「わ、そうなんだ」

「嘘つくな、そして簡単に名雪も騙されるな」

「照れるな、祐一」

「………あほ」

 

こいつと話してると本気で頭が痛くなってくる。

……元々はこいつのカノンまでの旅路の引率って事で俺は最初は引き受けたはずなんだけどなぁ。

いつの間にやら俺まで入学する事になっていた。

―――ハンターの仕事とか溜まってるんだけどなぁ、本当は。

まあ仕事は学生やりながらでも少しずつ片付けて行くか。

 

「それじゃあ行こっか」

「おう、これから世話になるな」

「よろしくね〜、名雪ちゃん」

「うん! 二人ともこれからよろしくね」

 

そして、雪が降り続ける街を俺達は歩きはじめる。

胸にはわずかばかりの希望、これからの日常に少しは期待している自分がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

……カノン王国より遙か南、真実の森と呼ばれる魔性の森林の中に一人の人影があった。

一度入れば死ぬまで出られぬといわれる幻覚を引き起こす魔法の森林。

魔物の数も多く、並み大抵の生物では数時間も生きてはいられない森である。

しかし、人影はそんな死の森に恐れる事もなく、ただ黙って一本の杖を取り出した。

人影はその手にした木製の杖を振りかざし……"それ"を唱え始める。

 

「―――"紅き灼熱の日差しを背に破壊の力を表したまえ"

 

人影が紡ぐ呪文は自分が編み出した自己詠唱。

自己の精神を統一し、頭に思い浮かべるのは数え切れぬ魔法理論。

 

「―――"我の求める力は天を衝く魔性の力"

 

その詠唱は力強く、人影の体からは目に見えるほどの魔力があふれ出す。

青白く光るその姿はまるで……天使の降臨を思わせる神聖な儀式にさえ見える。

 

「―――"汝に与えるは灼熱の原初の姿"

 

真実の森が震える……、周りにいた生物は既に生命の危険を感じ逃げ出していた。

魔法の化身であるはずの魔物さえ、その身可愛さに既に遠くへと逃げ出している。

 

「―――"我と汝の願いは一つ、さすれば契約に答えたまえ"

 

魔物さえ近づかぬその"異常"は森の魔力さえも吸い取り巨大な魔方陣を形成していく……。

描かれる魔方陣は―――古代文字で形成された古代魔法。

 

「―――"開かれよ、ゲヘナゲートッ!!!"

 

今、誰も知らぬ土地で地獄の門が開かれた……。

 

 

to be continue……

 

 

 

 

 

 

あとがき

第二話いかがでしたでしょうか?

今回は出会い編みたいな感じです、名雪や香里といったカノンキャラの出演。

設定がまたややこしくなってきた今日この頃ですが出来る限りわかりやすくと心がけています。

もう少し努力して皆様に楽しんでいただけるよう頑張ります。

祐一君は麻衣子ルート?何をおっしゃいますやら♪(´ω`)m

 

クドイようですがこのSSは毎日更新ではありません(何を今更w)

 

 

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―――第二話★用語辞典―――

 

―魔道書―

名のある魔法使いが書き記した自らが編み出したオリジナルの魔法が乗っている書。

しかし、この書は読んですぐに魔法が使えるというわけではなく、その理論や魔力構成を全て理解しなくてはならない。

一つの魔法に対し、多いもので100ページを超えるものまであってしかもその文章を暗記出来るぐらい読み返さないと使用にはいたらない。

 

―実戦魔法講義―

カノン学園の授業の一環として行われる生徒同士の魔法競い合い。

お互いに出来うる限りの魔法を打ち合い勝者を決める戦いである。

 

―校内序列―

カノン学園では昔から生徒同士を戦わせて優劣を決め序列を決める制度がある。

この序列で10位以内に入った生徒は他の生徒より待遇を優先される。

例えば授業料の免除、魔道書の観覧権の上昇、施設などの使用順位優先などだ。

 

―真実の森―

カノンより南に広がる人があまり近づかない死の森。

幻覚を引き起こす魔法が漂う不思議な森でカノンの昔話では昔、その森の中にエルフがいたとされる伝説の森でもある。

 

―古代文字―

既に現存する有名な魔法使い達の間でさえ失われつつある古代の神秘。

原初の魔法である古代魔法を扱うための伝説の文字である。

 

―ゲヘナゲート―

地獄の門を開く古代の魔法。

詠唱が長く、普通体内魔力のみでは発現さえ出来ない禁断の魔法。

本来なら霊地と呼ばれる魔力が満ち溢れている土地で行う大儀式魔法。