時は10−1247年、雪の大陸スノーランスにはいつもと変わらぬ雪が舞っていた。
そんな雪の大陸に一際巨大な国がある、魔法国家カノンだ。
世界的にも有名な数多くの魔法使いが暮らしており軍事的、文化的にも非常に発展している国である。
―――何故なら魔法とは科学であり、時には武器となりえるからだ。
それ故カノンは他国との貿易がほとんどなく、しかも同盟国はたった三国という少なさだ。
しかしそれでもスノーランス大陸の中では単一国家でありながらも他国を寄せ付けない力がカノンにはあった。
それは多くの魔道具職人が結集して造った、国全てを覆うほどの防御陣を発生させる魔法障壁装置にある。
常に魔法使いがいなくとも対物理、対魔法効果が持続するというカノン国最大の防御障壁だ。
この最強の守りがあるため、他国にカノンは侵略許さずまた他国を侵略しない体制をとっていた。
他国もそれを知っていてカノンには基本的に不干渉という立場を今現在も続けている。
そんな北東最大の魔法国家であるカノン国。
雪が降り積もるその国で小さな物語は幕を開くのだった……。
「……寒い、帰ろう」
そう俺は言いながら体を反転させる。
俺の今目の前にあった景色は既に俺の記憶の中から消去された、後はこのまま身を翻し帰るだけだ。
……が、隣にいたやつにマントを捕まれそれは失敗した。
「何をするか」
「あんたねぇ、ここまで来て尻ごみする気じゃないでしょうね?」
そういいながらこちらを睨んでいるのは秋桜麻衣子(あきざくらまいこ)、俺の古い親友だ。
子供の頃からの腐れ縁で昔から俺を知っている為か俺のする事の大半は事前にバレてしまう。
たまにこっちの心を本当に読んでるんじゃないかと思うほど的確に当ててくるからそれはもう筋金入りだ。
唐突だが麻衣子は赤色の長い髪に蒼き瞳、しかもかなりの美形である為黙っていれば実は凄い美人だ。
……でも俺はこいつの口の悪さを知っている為そんな間違った感情は抱かない。
「何? あんたチキン? そこらにいるゴブリンにも劣らない弱虫ね」
こんな言葉を毎日のように向けられればそりゃ千年の恋も冷めるっつーの。
しかもこいつ、俺と同じ職業のハンターをしている為商売敵でもある。
階級は俺より1つ下のC級ハンターだが腕は確かでハンター協会では既に次期B級候補の一人にあがっている。
腰に携えた一振りのメイスを使い敵を薙ぎ倒す姿はまさに戦鬼、通常の戦闘能力でいえば俺以上だ。
しかもあのメイス、実はかなりの問題品である。
昔は名のある神職者が扱っていたものらしいのだが……、それをどう間違ったか麻衣子に今のような改造を施されてしまった。
厳密に言うとそれはもうメイスではない。
だって彼女はそのメイスを一通り改造した後に俺にいったのだ。
彼女曰く―――「これはもうびっくり箱ね」―――だそうだ。
そんな彼女は仲間内から「メイスの麻衣子」と呼ばれ親しまれている。
―――もっとも本人はそのあだ名が酷く気に入らないようだが。
「―――なんか凄い不快な事考えてない?」
「いいえ、全然?」
やはり異常に鋭い麻衣子を置いておいて俺は目の前に広がる巨大な都市を眺める。
―――北東最強の魔法国家、カノン。
久しぶりに帰還を果たしたその街は昔と少しも変わらぬ佇まいだった。
「さあ、祐一いくわよ!」
麻衣子は俺の手を引っ張りカノンへと向かう雪降る並木道を駆け出していく。
「い、いや、待て! まだ心の準備が……」
「男ならウダウダ言うな! ほら!」
俺はため息をつきながらも仕方なく麻衣子の速度に合わせながら走り出した。
「雪の国カノン」
「―――新規入学者……ですか?」
カノン城下街の中にある魔法使い養成所であるカノン魔法学園。
有名な魔法使いを世に送り出す為の教育が施されるカノンの養成学園だ。
そのエリート学園で理事長をしているティンクル・レイバーは眉を顰めながら渡された用紙を見ていた。
渡されたのは二枚の入学用手続き書、そこには二人の男女の映像と入学要項が書かれていた。
―――秋桜麻衣子(18歳)
17歳、ハンターC級ライセンス取得
魔法経験……皆無
魔力測定……不明
推薦者……水瀬秋子、相沢玄一
「魔法経験どころか魔力測定さえも不明……、こんな生徒をどうして我が学園に入れられると?」
ティンクルはこの用紙を渡してきた張本人、目の前にいる蒼い髪色の"魔法使い"に問いかけた。
こんな入学要項の不備はティンクルが理事長になってから初めての事だ。
……普段ならばこんなふざけた用紙が来た瞬間本人が目の前にいようが破り捨てるのだが今回は相手が悪かった。
「あら、何かご不明な点でもありましたかしら?」
問いかけられた本人は頬に手を当てながら不思議そうにそう返した。
ティンクルはため息をつき、用紙をヒラヒラと振りながら呆れたように言う。
「この学園はカノンきっての魔法使い養成所です、才能のない子供を預かる気はありません」
「あら? 才能がないなんて何故わかるんですか? まだ検査もしてないのに」
「ならばその検査をしてからこの用紙を提出してください、いくらあなたの推薦でもこればっかりは……」
「―――それではもう一人の子も同じ理由で落としますか?」
魔法使いはティンクルが持っていた用紙とは別に机の上に置かれた用紙を指差す。
ティンクルは不思議そうに魔法使いの指差された用紙を見て―――瞬間顔色が青ざめた。
「なっ!? ……こ、これは」
用紙に移る魔法で出来た映像には一人の少年の顔が映っている。
……少し茶が入った髪に青みがかったその瞳は印象的ではあるが大して変わらぬ普通の少年のようだ。
しかし、ティンクルが驚いたのはその少年の顔ではない……その隣に書かれた入学要項を見て驚いたのだ。
―――相沢祐一(18歳)
18歳、ハンターB級ライセンス取得
魔法経験……2A
魔力測定……不明
推薦者……水瀬秋子、相沢玄一、アレン・デイ・アスラン
確かに18歳でハンターライセンスB級を持っていてしかも魔法経験が2Aならば確かに凄い。
多分まだ判明していない魔力測定も検査すれば3Bぐらいの高評価は出すかもしれない。
しかし……ティンクルが驚いたのはそんな事ではない。
――それは確かにこの歳でハンターB級は凄い、だが我が学園には19歳でありながらもA級ライセンスを持つ川澄舞がいる。
――それは確かに魔法経験が2Aなのは凄い、だが我が学園には彼と同い年でありながらも1Sを持つ川口護や久瀬英貴がいる。
だから驚きはするがそれほど顔色も変える必要はないはずだった……。
「あ、相沢祐一……? い、いや、まさか…ありえない」
ティンクルは青ざめた顔を両手で覆いながらその名前を繰り返している。
―――相沢祐一……っと。
そんなうろたえる彼女の様子を見ながらも蒼髪の魔法使いはただただにっこり笑って、
「入学許可していただけますね? ティンクル・レイバー理事長、――もちろん二人とも」
……とだけ告げた。
「―――遅い!!!」
麻衣子はもう何度目になるかわからない不満を叫びながら俺へと振り返る。
……まったくもって今回の事には無関係なのだが、何故か俺が睨まれ文句を言われる。
「迎えは何時来るのよ!? もう予定の時間から結構すぎてるわよ!」
「俺に言うなよ……」
「じゃあ誰に言えばいいのよ!!」
「…………」
もう駄目だ、こうなった麻衣子は手がつけられない。
何を言っても結局俺のせいとなり、終いにはこいつがメイスまで取り出す羽目になる。
誰もこんな寒空の下で決闘などしたくはないので下手に刺激しない方がいい。
ガキの頃から一緒にいるためこいつに対する自己防衛は完璧だ。
「あー、もう寒い! 祐一、なんか暖かい火の魔法使ってよ!」
「はぁ? ……たく、仕方ねぇなぁ、んじゃまあ一つ――"闇の中で照らす一筋の篝火と成れ、ファイヤーボール"」
俺は手の平に基礎魔法の一種である簡易魔法を発現させる。
手に浮かぶは小さな炎の球体、暖炉代わりとはいかないけどこれで十分だろ。
「ほれ、これでどうよ?」
麻衣子に出来るだけ速度を遅くしたファイヤーボールを投げつける。
温度の調整もしたし多分素手でも受け取れるはずだ。
麻衣子は俺のファイヤーボールを受け取ると早速暖を取りつつも呆れたようにこちらを見ている。
「………あんたねぇ、そんな基礎魔法ぐらい詠唱破棄出来ないの? 本気で才能ないわね」
「うっさい、詠唱破棄苦手なんだよ……」
「それにその上で自己詠唱? 確かファイヤーボールの詠唱って正式には"闇夜を照らす業火と成れ"じゃなかった?」
「いいだろうが、別に……一応発現出来てるんだし」
なんでわざわざご要望に答え魔法を使ったというのにここまで文句を言われるんだろうか?
第一、人の事を馬鹿にしているこいつは魔法系統が一切使えない。
生まれながら父親の影響でメイスなどの武器系一本で生きてきた麻衣子にとって頭を使う魔法は苦手なのだろう。
しかし、魔法国家であるこのカノンに着いてからはそうは言えない。
―――実は俺達は、はるばるこのカノン王国に魔法の扱い方を習いに来たのだ。
まあ本来の目的はこいつの基礎魔法勉強で、俺はおまけで引っ張られたっていうのが事実なのだが……。
「それにしても……本当に迎え遅いわね」
「あぁ、……つーか普通に寒いな、俺も使うか――"闇の中で照らす一筋の篝火と成れ、ファイヤーボール"」
「また自己詠唱……、なんか理由でもあんの?」
「………だから苦手なんだって」
温度を調整して丁度いい暖かさになったファイヤーボールを手で転がしながら呟くように言う。
―――確かにこんな基礎魔法を自己詠唱で唱える魔法使いなんて物好き以外にはいないと思う。
でも、俺だって好きでこんなめんどくさい事をしてるわけじゃない。
……ただ単に、俺にはこれしか出来ないだけだ。
「はぁ……、しかし遅いな」
俺はため息をつきながら空を見上げる。
雪が舞う空は薄暗く、どこか哀しくも美しいそんな可笑しい世界だった。
っとそんな事を考えながら空を見上げていたらであろうか、何時の間にか目の前に一人の少女が立っている事に気づかなかった……。
「雪……積もってるよ?」
その声に反応して俺が目線を戻すと……そこには蒼い髪の少女がこちらを見ながら不思議そうに首をかしげていた。
to be continue……
あとがき
第一話いかがでしたでしょうか?
あなたの期待通りの展開なら万歳、期待はずれなら切腹です……(汗)
しかし、いきなり専門用語ばかりで頭が混乱してしまうかもしれません。
多分結構オリジナル設定ばかりなのでわからない言葉も出てきている事でしょう。
そんな人の為に用語辞典を作っています、まだ余力がある方は少しばかり目を通していただけると幸いです♪
尚初めに提示しました世界観、魔法概念、種族関連の情報は時折急に変わることがあります。
何故なら物語の進行状況によって設定が変化する場合がありますので、その際にはなるべく上記3つも訂正するようにします。
後、「道化師」を読んだ方が誤解するといけないので先に言っておきます。
このSSは毎日更新ではありませんのでご了承ください(滝汗)
―――第一話★用語辞典―――
―雪の大陸スノーランス―
世界にある5大陸のうちの一つ、殆どの季節で雪が降るため雪の大陸と言われている。
―魔法国家カノン―
総人口約4万人、その内魔法使いが2万5千人弱という世界一巨大な魔法使い達の国。
他国との貿易にあまり頼らず国の中で、ほとんどを賄う閉鎖的な国でもある。
城壁などには魔法障壁が常に展開しており他国の侵入を許さない。
―魔道具―
魔力が込められた武器や道具の事を指す。
魔道具は単体で魔法を発現させたり術者の魔力補助をしてくれたりする便利道具だ。
―魔法障壁装置―
普通なら家一軒を覆い尽くす事が出来るものならば魔道具として一級品なのだがカノンにある装置は街全体を覆い尽くすという異常さ。
本来ならば魔法障壁発生装置という名称なのだが大人の都合で短く短縮された。
―ハンター―
現在全大陸中もっとも人気がある職業。
ギルドや酒場などで貼り出されている任務内容を確認しその任務をこなすと成功報酬がもらえるという仕組み。
ハンターライセンスさえ持っていれば魔法使いだろうが城の兵士だろうが犯罪者であろうが誰でも報酬は受け取れる。
ランク取得については細かい審査があるのでここでは割合します。ランク取得の参照は「世界観」で。
―メイス―
本来聖職者向けに開発されたと思われる鉄の棍棒。
棘などがついていない事から「殺生はいけません」って事なんだろうけど普通に殺傷能力高いだろ、これ。
ちなみに秋桜麻衣子が持つメイスはメイスであってメイスではありません(矛盾の説明はまた今度)
―魔法経験―
これは魔法使いが今現在使える自己最高の魔法を審査員の前で披露しランクづけされたものを表す。
評価は1C〜3S評価となっており、数字は大きければ大きいほど良い。
例・1C<3C 2B<1A 3C<1B 3A<1S
―魔力測定―
これは魔法経験とは違い専用の薬を飲む事で術者の適正を調べる検査である。
魔力量という魔法使いにはさけて通れない生まれながらの体内最大魔力容量を表す検査。
評価は魔法経験と同じ1C〜3Sで表す。
―ファイヤーボール―
大抵の魔法使いが初めに覚えるとされる低級の攻撃魔法。
詠唱も比較的短めで、しかも使い勝手がいい事からとても人気が高い代表的な基礎魔法。
正式名称はファイアボールだとかなんとか聞いたけど……本当かな?
―詠唱破棄―
魔法とは基本的に魔力発生→詠唱→魔法発現→魔法発動という流れで発するものでこの過程の詠唱を抜かす事を詠唱破棄という。
この方法を用いると長い詠唱の上級魔法でも一息で発生させる事が出来る。
しかし、本来とは違う過程で魔法を使うと魔法バランスに誤差が生じて必要以上の魔力が体外に流失し、最悪魔法も発現しない。
詠唱が長い魔法ほど失敗しやすくバランスを取るのが難しくなる。
―自己詠唱―
本来は自らが作り出した魔法につけるオリジナルの詠唱であり、普通の魔法の詠唱より多くの魔力を消費してしまう諸刃の剣。
大抵はそのリスクを背負ってでも余りある見返りが期待できるものだが低級魔法で使う魔法使いはほとんどいない。