「なあ……、誰だか知らんが視線を感じるんだけど」

 

ついに堪えかねて俺は二人にだけ聞こえるように話す。

目の前で色々案内してくれていた名雪は周りを見渡して首をかしげ、麻衣子は急に真面目な顔になる。

カノン学園に入ってからずっと違和感には気づいていたが今まで無視をしてきた。

……が、流石にここまでついてこられると正直いい気はしない。

 

「視線? ……本当だ、こりゃ気づかないわ」

 

麻衣子は早速気配を探り視線を感じ取る。

流石にここ数年ハンターをやっていた甲斐はあるみたいだ。

しかし麻衣子が感じにくい視線か……、結構な実力者だな。

 

「え? え? 私わからないよ?」

「あぁ、名雪ちゃんはそれで正常、こんな微量の視線に気づくような異常者になっちゃ駄目だよ?」

「酷い言い草だ……」

 

名雪は不思議そうに俺達の話を聞いている。

……どうやら秋子さんからは気配の読み方を習ってはいないみたいだな。

学園じゃあ教えてないのか、……まあ魔法使いには不要なものか。

 

「で? この視線何時頃から?」

「んー、さっき校門を抜けるぐらいからずっとかな?」

「呆れた、そんな前からずっと気づいてたの? ―――相変わらず気配を読むのだけは上手いわね」

「……褒め言葉として受け取ろう、しかしどうするか」

「放っとけば? 敵意じゃないし……、観察って所でしょ?」

 

……そうだろうか?

俺的には観察の中にある敵意を通り越した殺意を少し感じるんだけどなぁ……、巧みに隠してるけど。

あぁ、もしかして俺にだけわかるようにしてるのか?

―――中々可愛い事してくれるじゃん、その誘い、乗ってやるか。

 

「ちょーっと、俺用事が出来た! 先行っててくれ」

「え? 祐一?」

「あー、はいはい、気をつけなさいよ?」

「おう、ほどほどにして逃げ帰るさ」

「あ、祐一!?」

「まあまあ、ほら……先に食堂いってよう!」

 

名雪たちと別れ、俺は視線の主へと歩を進める。

俺が名雪たちと離れた事を確認したのか視線は段々と鋭くなってくる。

―――うわぁ、結構使い分けが出来るやつだな。

やばい、予想以上の実力者かもしれない。

 

 

 

 

――――やだなぁ……、手加減出来なかったらどうしようか?

 

 

 

 

ロードナイツ

 

第四話

「魔法使い」

 

 

 

 

もはや殺意のみとなった視線に連れられて俺は歩き続ける。

見知らぬカノン学園の廊下を通り、暗い地下への階段を降り……ついたのはひらけた闘技場のような場所だった。

―――意外と用心深いやつだな、ここまで念入りにされるとは思ってなかった。

学生でここまで気を配れるやつがいるのか……、こりゃ随分と実戦慣れしてる相手だな。

 

「で? いつまで隠れてる気だ?」

「………驚いたな、場所までバレバレかよ」

 

俺の声に反応して闘技場の二階にある観覧席から一つの人影が飛び降りてくる。

金髪に漆黒のマント姿をしたその少年は見事に着陸して翡翠色の瞳でこちらを見据えていた。

 

「相沢……祐一だな?」

「人に名を聞く前に自分から名乗るものだぜ?」

「―――俺の名前は……北川潤」

 

そういいながら北川というらしい少年は体全体をすっぽりと覆っているマントから一振りの剣を取り出した。

……それは随分と変わった剣だった、装飾が多く剣としての特性を棄て儀式用に改良された剣のようだ。

もしかして……魔道具の類か?

 

「悪いんだけど俺と一勝負してもらおうか」

「あ〜、折角の誘いだけど……正直気乗りしない、悪いな」

「―――"ローエンシュヴェルト"

 

俺がそういって引き返そうとした瞬間、―――辺りは火の海へと変貌した。

振り返ると剣を振り下ろした体勢でこちらを見据える少年の姿。

……まったく、面倒くさい事してくれるな。

 

「詠唱破棄でしかもこの威力……そりゃ魔道具なんて代物じゃないな」

「まあな、これは一応俺の家にあった家宝の一つだからな」

「なるほど、家宝ね……差し詰め魔剣の類って所か」

「ご名答、この剣の名前は"ローエンシュヴェルト"、炎属性の魔剣だ」

 

ローエンシュヴェルト……ね、"燃え上がる剣"って所か。

聞いた事のない魔剣だけど……多分効果は詠唱破棄で上級魔法を使う事が出来る魔剣。

しかも見たところ、北川自体は魔力を一切使ってないみたいだ。

―――どういう理屈かはわからないが厄介な魔剣だな。

 

「……しかしわざわざ教えてくれるとはね、それだけ自信があるって事か?」

「まあ……なっ! ―――"ローエンシュヴェルトッッ!!!"

「―――ちぃ、上級魔法を詠唱破棄ってのはやば過ぎだっ!!」

 

俺はそう愚痴りながら体内の対魔力を極限まで上げて迫り来る巨大な炎をギリギリかわす……。

しかしその際、かわしきれなかった分の体の火傷が広がっていく。

たく、滅茶苦茶熱いっつーの!

 

「いつまでかわし続けられるかな? ―――"ローエンシュヴェルトッッ!!!"

「熱っっ!! くそ、こうなったら反撃してやろうじゃねーかー!!」

 

俺はもうヤケクソ気味にそう叫ぶ。

……いや、だって本気でこれ以上喰らったら火傷じゃすまないっつーの!

しかし、こんな反則に対抗できる策なんてすぐに思いつかねぇーよ……。

取り合えず……間合いを離さないとまずい。

 

「―――"ファイヤーボールッ!!!"」

「んな低級魔法が上級魔法に敵うかよッ! ―――"ローエンシュヴェルトッッ!!!"

「………くそっ!!」

 

――牽制さえ許さないって事かよ!?

俺の詠唱破棄したファイアーボールを軽く消し飛ばし容赦なく迫り来る炎の波!

やばッ………、これって―――直撃コース!?

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

―――そして、そのまま俺の目の前が紅色の炎で埋め尽くされた。

 

 

 

 

「終わった……か」

 

俺は構えていた魔剣を下ろし、未だ燃え続ける炎を見ながらそう呟いた。

………正直に言って上手く行き過ぎだ。

最初の攻撃は退路を防ぐためのもので、見事成功。

その上相手に詠唱を唱えさせる前に魔剣を発動でき、完璧に詰みの体勢は整った。

魔法使いの勝負の殆ど戦う前に決まっている。

十分に時間をかけて準備が出来た俺、入学してきたばかりでこの場所さえ知らなかった相沢祐一。

―――どちらに勝率があるといえば圧倒的に俺の方にあった。

 

「う〜む、しかしまずったなぁ……」

 

まさかここまで上手くいくとは思わなかったのでこの結果は予想していなかった。

本当はその実力を計るために為に仕掛けた作戦だったのに何時の間にか本気で戦ってしまった。

それに相手が思った以上に抵抗してこなかったのも驚いた。

何せ相手が使ったのはただの低級魔法のみ、その他はただ逃げ回っているだけだったのだから。

 

「期待はずれ……って事か、"傍観者"も大した事なかったな」

 

下手したらさっきの一撃で相沢祐一は死んでしまったかもしれない。

これが学園側にバレたら結構大事だ、何せ序列1位の俺が力のない新入生を潰したと思われるからな。

序列試験が明日だっていうのに、本気で失敗した。

 

「あーあ、後始末しなきゃなんないな………」

「―――"コールドレイン"」

「え? ………うぉっ!」

 

俺が発した魔剣の影響化にある魔法の炎が急に発現された魔法の氷柱によって全て相殺される……。

氷属性の上級魔法コールドレイン、しかもこれは……詠唱破棄魔法。

魔法とは更に密度の高い魔法に相殺される。

炎の魔法は一度発現するとただの水では消えない、今のように水系の魔法や氷系の魔法で相殺させるのが一番だ。

 

「うっは〜、滅茶苦茶やってくれるな」

「君ほどじゃないさ……、しかし流石に上級魔法の詠唱破棄は疲れるね」

 

そういいながら魔法修練場の出入り口である木製の扉から1人の生徒が入ってくる。

少し長めの銀髪にカノンの生徒の象徴である白い制服が嫌に似合う男子生徒、中性的な顔立ちのその少年の名前は川口護。

カノン学園2年生序列3位の称号を持つ氷魔法と水魔法の使い手だ。

 

「それにしても派手にやったね、ここまでする必要あったのかい?」

「さあな、俺も非常に怪しくなってきた」

「しかし、魔剣とはね……君も飛んだ隠し玉を持ってたものだ」

「げ、全部見てたのかよ……、まずったな」

 

……魔法使いの手の内は極力隠さなくてはいけない。

魔法使いが奥の手を使う時は常に勝利を確認した時だけ、自らの秘密を他人に知られる事は魔法使いにとって大失態だ。

しかもそれが自分の家の家宝ともなれば事は重大だ。

本来ならばここでこいつの口封じでも考えるのが正しい魔法使いのあり方だ。

しかし、カノン学園ではそんな勝手な事は許されない。

校則第128条、「生徒間での命のやりとりはどんな場合も禁ずる」というものがあるからだ。

なので俺は相沢祐一に手を出す事を急いだのだ。

生徒になってからじゃもう遅い、相沢祐一の本気を見るためには生徒になる前の段階でなくてはいけない。

 

「それにしても噂なんてやっぱり当てにならないな」

「どういうことだい?」

「だって情報屋にまで頼み込んで下調べ完璧で挑んだ相手がこんなにも脆いなんて思わなかったんだよ」

「脆い……ね、そう思うんだったら僕が魔法で相殺した場所をよく見ているといい」

「残念、俺にはそういう死者にかける情けや後悔は一切持ち合わせていないんだ」

「死者? 君ともあろう者が衰えたね……"どこに死体なんてあるのさ?"」

「―――何?」

 

俺は川口の言葉を聞き煤だらけの相沢祐一を仕留めた場所に走る。

―――おいおい、まさか!

 

「やられた……、あの道化師が」

 

俺はそう苦笑まじりに呟いた、―――完璧に嵌められた。

相沢祐一がいるはずのそこには……ただ一本の燃え尽きた木片だけが静かに置かれていた。

 

 

to be continue……

 

 

 

 

 

 

あとがき

第四話いかがでしたでしょうか?

謎が謎を呼びすぎて混乱しているあなたへのわずかばかりの促進剤となればいいのですが。

まあもっと謎が深まったと思いますけど(ぇ

北川の癖に目立ちすぎだー(・∀・)

 

もう既に飽き飽きしてるでしょうがこのSSは毎日更新ではありません( ̄∀ ̄)

 

 

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―――第四話★用語辞典―――

 

―魔剣―

魔力が込められている上級の魔法補助道具。

魔剣製造は難しく、成熟した錬金術師でも造れる者は少ない。

魔法使いにとっては切り札となりえるほどの強力な魔力が込められている。

 

―ローエンシュヴェルト―

その名の通り剣自体が燃え上がる魔剣。

広く知られた伝説の魔剣ではなく、家宝として隠されていた隠蔽型の魔剣である。

効果は「ローエンシュヴェルト」と呼ばれる上級魔法を詠唱破棄で唱える事が出来る。

使用条件は対象者の少量の血液を魔力の変わりに燃やし発動する。

魔力でも発動は出来るがその場合は普通の上級魔法以上の消費量になってしまう。