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世界を巻き込んだ大災厄から五年、世の中は段々と平穏を取り戻してきた。

時は十と千二百四十七年、雪の大地スノーランスには何時もと変わらぬ雪が今日も舞い続けている。

そんな万年雪が振り続ける大陸に一際巨大な国が存在していた、その名を魔術国家カノン。

世界的に有名な数多くの魔術師が住まう場所であり、軍事的にも文化的にも発展している国家である。


―――何故なら魔術は科学であり、強力な兵器と成り得るからだ。


だがカノンは一国でありながらも巨大な国力を誇るが故に、他国との積極的貿易は廃れ軍事的な同盟国も少ない。

更には万年雪の大地が農作物を年間を通し弱らせ、地の恵みを凍らせている。

その様な過酷な環境で在りながらもカノンは未だに大陸一の国家で在り続けていた。

桁外れの国力を秘めるカノンとて過去、他国に攻め込まれた経験が無い訳でもない。

しかしカノンには侵略を防ぐための絶対的な防壁が存在している。

それは数多くの魔術師達が英知を結集し創造されたとされる、国全てを覆うほどの結界を発生させる障壁装置にあった。

魔術師が常駐せずとも常に対物理、対魔術効果が永続的に持続するというカノンの絶対防衛手段である。

剣を寄せ付けず、矢を通さず、魔術を打ち消す最強の守りに包まれた国土は、他国を積極的に侵略せずまた他国の進行を許さない中立体制をとっていた。

他国もカノンの絶対防壁と仮に攻め滅ぼしたとしても後の統治難によって基本的に不干渉という立場を現在も続けている。

 

 

 


そんな北方最大の魔術国家カノン、雪が降り積もるその国で小さな物語は幕を開くのだった……。

 

 

 


ロード★ナイツ
第一話
「サイヤクの帰還」

 

 

 


淡く、触れると融けてしまいそうな粉雪が世界を蔽う様に降り続けていた。

空が太陽を覗かせる事が珍しい、大地を白く染め上げる万年雪の大陸。

凍えてしまいそうな空気が肺に送られる度に胸が貫かれるような気分になる。

―――極寒の大陸、スノーランスとはよくいったものだと感心した。

 

 

 


「……寒い、帰ろう」


この大陸に降り立ってから一度も晴れない曇り空を見上げて俺はそう呟いた。

口からは白い息が吹き零れ着込んだ黒い外套にも容赦無く雪が降り積もって行く。

このような場所に来る為に値が張った防寒用の外套を購入したがちゃんと機能しているかさえ怪しい。

目の前の光景は遠い過去のものとして消去し一刻も早くこの場から立ち去りたかった。

……が、横合いから伸びた手が俺の外套を掴み動きを阻害する。


「あんたねぇ、いい加減にしなさいよ」


自由の妨害者は身体を反転させて逃亡しようとした俺の襟を強引に引き摺りながら雪の丘を下って行く。

単純な力では到底太刀打ち出来ないので仕方なく為すがままにされる。

不快にも衣服に雪が纏わりつくがそんな事はお構い無しなのか歩く速さは一定だ。

抗議したいのは山々だが、そんな文句を聞くような相手ではない事は百も承知である。


「正式に呼ばれたのはあんただけでしょうが、私だけじゃ入国も出来ないのよ」


それは俺のせいじゃない、そう心の中で呟きながらも機嫌が悪そうなので黙っておく。

どうやら寒さに強そうなこいつも降り続ける雪には憂鬱さを感じていたようだ。

まったく、黙っていれば整った容姿なのに暴言ばかり吐く奴なので残念すぎる。

……兎にも角にも今は無駄に逆らわない方が賢明だと経験が諭してくる。


「折角新しい国に着たんだからギルドにも顔出したいし、早く入国手続き済ませなさい」


ギルド、それは各国家に支部を置く世界最大の独立労働組織である。

地域によって様々な仕事があり、大抵は国が対応しきれない国民の不満や要望を叶える事が多い。

例えば国内で需要が少ない物品や衣服を他の大陸から取り寄せる事が出来る商人ギルド。

例えば他国や危険地帯に用事がある際、護衛として付き従う戦士を雇える傭兵ギルド。

例えば十分な加工技術が存在しない過疎地などに滞在して刃物や農具を製作する鍛冶ギルド。

相応の金額さえ払えば大抵の要望なら叶えてくれるギルド組合は国民にとって無くてはならない存在になっている。

俺達も非登録ながらギルドに協力しており、普段はそこで仕事や報酬を得ていた。

世界各地を放浪している身としてはとてもありがたい組織であるといえる。

だが正式なギルド員ではない俺達に入ってくる依頼は無茶なものも多く、単純に便利だと言い捨てる事は出来ない。

しかしそんな危険が付き纏う仕事をこいつは毎回楽しそうにこなす。

まあ見た目とは違い世間知らずだからな、人々と触れ合える仕事が純粋に楽しいだけなのかもしれない。


「はぁ、まあいいか」


考える事も面倒くさくなり雪の上を転がるように引き摺られていく。

眼下に広がる巨大な国家、世界中の魔法使いが集う国。

北方最大にして世界最強の魔術国家、カノン王国。

人口の半分以上が魔術師であり世界的に有名な学術都市としても名を馳せている。

幼少の頃に訪れた時と少しも変わっていない外観を観て静かに目を閉じた。

久しぶりに帰郷したその街は本当に子供の頃のままで、変わらない。


「……めんどくせぇなぁ」


―――それが、酷く、空ろなものに視えた。

 

 

 


王立カノン魔術学園、ここは『高名な魔術師ならば大抵はこの学園を卒業した者だ』と云われるほどに有名な学園だ。

世界各地から収集した魔術に対する知識を全て詰め込んだような学園は魔術師にとって聖地と云われる場所だった。

そんな学園の長である筈のティンクル・レイバーは困惑したような不満気な表情をしながら目の前に置かれた二枚の書類と睨めっこをしている。

……眼鏡の度数は合っている、しかし書類に書いてある事がどうも理解出来なかった。

いや、自発的に内容を理解したくなかったというのが正解なのかもしれない。

何故なら書かれていた内容は至って簡単、特別枠として外部からの編入を認めるようにという命令書だったからだ。

―――カノン学園は王立の為、基本的に王宮から直接命令されたものは大抵断れない。

これまでも入学試験に合格出来なかった実力の足らない貴族を王宮命令で無理矢理入学させられた事もあった。

理不尽な命令に納得はしなかったが学園の創立目的を考えるに抗議の一つすら出来ない。

そんな絶対的関係にある王宮と学園だが、今回の命令書は大分普段とは違っていた。


「……流れの旅人、相沢祐一」


ティンクルは黒い髪の少年が描かれた書類を手に取る、外部からやってくる学生の一人だ。

やる気といったものが全体的に欠如しており、その癖何かに達観しているような表情が印象的である。

魔術師としての力量を測る元素変換資質は平凡なB2程度、魔術師としての資質を量る魔力貯蔵容量も珍しくも無いB3程度。

外部編入する生徒にしては実力が足らない、年齢からすると高等部二年生だが序列生徒になる事も不可能だろう。

ティンクルは頭痛がする頭を抑えながら続けてもう一枚の書類を手に取った。

燃え盛る火焔のような赤髪に息が止まりそうになるほど真っ直ぐな紅い瞳。

まるで芸術品の一つのような人間離れした容姿の持ち主の少女。


「そして傭兵見習いの秋桜麻衣子」


彼女に至っては魔術を扱った経験は無く、また元素変換資質や魔力貯蔵容量すら調べていない全くの素人。

外部編入で入ってくる生徒は大抵がそれ相応の実力者であり、後から入学した遅れを取り戻せるほどの優秀な者に限られる。

だというのに条件を満たしていないどころか魔術師ですらない、何故そんな者達をこの学園に入学させなくてはならないのか。

ティンクルはもう何度目になるのか数える気にもならないため息をつく。

しかし、この書類を絶対に無視する事は出来ないだろう。

二枚の書類が入っていた便箋に目を向ける、するとそこには推薦者の名前がしっかりと刻まれていた。


―――カノン王国所属王宮魔術師、水瀬秋子。


カノン学園がカノンの将来を担う為の者達だとしたら、王宮魔術師はまさに現在のカノンを担う者達の頂点に位置するものだ。

しかも水瀬秋子といえば、国王が最も信頼する魔術師であり実力はカノン王国の中でも最強と謳われている。

"救国の英雄"とまでされている彼女が直々に命令書を送って来るなんてカノン学園が創立して以来の事だった。


「はぁ、全く……どうしろと言うのですか」


入学を認めるしかない二人の問題児を想い、ティンクルは憂鬱そうにもう一度深くため息をついた。

 

 

 


最初は物珍しかった雪も、今では見るだけで憂鬱なものへと変貌している。

入国して最初に訪れたギルドの支部がある酒場の窓から外を眺めていた俺はそう思った。

元々根無し草だが既にこの大陸から離れてティリーナかボルタスの大陸に移りたい。

……雪は嫌いだ、過去の思い出が苦痛と共に頭の中に流れ込んでくるから。

俺は注文していた度数が高い酒を一気に飲み乾す、するとすぐに痺れる様な熱さが咽と胃に広がってきた。

雪国ならではの強烈な酒はアルコールが苦手な俺には強すぎるようだが、思い出したくない記憶は酒と共に奥底へと流れていく。

―――酒に逃避するほど歳を重ねた気は無いが、これはこれで便利なものだ。


「祐一、何か知らないけど沢山仕事あったわよ」


純白の国に不似合いな一際目を惹く赤髪を揺らし、秋桜麻衣子は両手に大量の依頼書を持って帰って来た。

支部に着くなり俺を置いて消えたと思ったらどうやら今ある仕事を確認していたらしい。

どれだけ仕事好きなんだと思うが、まあ働く意欲が湧かない俺よりは正常だ。

生きていく為の努力を極力したくない俺と、今を生きる事が楽しくて仕方ない麻衣子の違いだろう。


「そりゃあ、こんな雪国じゃギルドも人員不足だろうよ」


俺はそう呟くように言うと、机に突っ伏しながら飲み終えた杯を指で転がす。

元々何でも屋のようなギルドに来る仕事は多い、それこそ子守りや買出しなどの平和的なものから護衛や傭兵の類まで様々だ。

だからこそ正式にギルドに所属していない非登録員の俺や麻衣子もこうして仕事を貰える訳だが。

ちなみに俺達が専門にやっているのは傭兵ギルドの方だ、商人ギルドは諸事情により出来る事が限られてしまう為に。


「あっ、ていうかあんた一人で何勝手にお酒飲んでんのよ」

「それが凍える相棒を置いて我先にと仕事を探しに行った奴の台詞か」

「うっさいわね、馴れ合ってんじゃないわよ……あんたは私の商売敵でもあるんだからね」


確かに、俺と麻衣子は共同でギルドの仕事を引き受けているわけでは無い。

時々一緒に仕事をするがその時は報酬は半々の割り切った関係になる。

二人とも足手まといになるようなら相方は捨てていくという考えなので、楽と言えば楽だ。


「ほら、依頼書持ってきてあげたんだから一杯奢りなさい」

「抜け目が無い女だな、同じのでいいか?」

「構わないわよ、口に入れば何だっていいわ」


とんでもない事をサラリと言いながら対面の席に座る。

身体能力が人より優れているせいか麻衣子は燃費が悪い、ようするに大喰らいだ。

筋肉や脂肪があまりついていないような身体の癖に体積以上の食料を軽く平らげる女。

しかも量さえあれば味を全く気にしない豪快な嗜好をしている、本当に男勝りな性格だ。

俺は酒場の亭主に同じ酒と軽い肴を頼むと麻衣子が持ってきた依頼書に目を通す。

するとそこには雪国だけあって他の大陸では無い仕事が沢山あった。

商店街に積もった雪の除去、家畜の体温管理と小屋の掃除、雪の重みに耐えられなくなった屋根の修理など。

魔術を推奨している国だけあって依頼内容は大体が平和なものだった。

他国では多い物騒な依頼はほとんど無い、世界最強とまで謳われる魔術国家は名前だけではなさそうだった。


「お待ち、ブラッカ酒に当店名物の鳥の辛焼きだよ」


注文したものが依頼書で雑多としている机の上に上手く置かれる、恐らくはこんな光景が日常茶飯事なのだろう。

俺は金貨を支払い軽く礼を告げると早速来た料理に手を伸ばす。

何の鳥かは知らないがモモ肉を辛い調味料と一緒に炒めた料理のようだ、香ばしい匂いが食欲を誘う。

……思えばカノンに来るまでの道中は干した肉や薬草みたいな苦い植物しか口にしていなかったな。

雑な料理に慣れているとはいえ、こうしてまともに食事が出来るというのは嬉しいものだ。


「ん、美味いな」


噛んだ時に溢れる肉汁と、意外にしっかりとした味付けが香辛料とあっていて美味しい。

これで焼いたばかりのパンと上等な葡萄酒でもあれば最高の贅沢になるだろう。

名物料理になるだけはある、ギルドが経営する酒場にしては上出来すぎる一品だった。


「ぷはー、中々良いお酒じゃない」


麻衣子は麻衣子で強い酒を気に入っているようだ、一口で飲み乾すが酔った様子は無い。

弱い俺とは違いどれだけ飲んでも酔わない下戸だそうなので純粋に味を楽しんでいるだろう。

そしてそのままモモ肉を手に取ると齧り付いた、女の癖に何て男らしい奴なんだ。

彫刻のような美しい容姿をしているのに冗談みたいに豪快な食べっぷりが似合う。

もう長い事一緒に旅をしているが、今でもそれが不思議に思う。

 

 

 


「―――来たみたいだね」


カノン王国の中心部、降り積もる雪にも負けないほどの純白な城壁に囲まれたカノン城の最上部。

国全体を見下ろす象徴のような形で作られている塔の頂上から人影は呟いた。

豆粒のように小さく見える祐一達が居るギルド支部を見つめながら嬉しそうに頬を緩ませる。

……何年間待っただろうか、彼が帰って来てくれるまで。

過去を思い出すだけで胸の奥が少し熱を発する様な感覚がある、ちょっと苦しいがそれが心地いい。

積み重ねてきた時間、彼は果たして覚えてくれているだろうか。


「でも変な男の子だもんね、忘れてそう」


苦笑しながら、人影はおもむろに塔から身を乗り出した。

踏みしめる大地は遙か彼方、何の抵抗もしないまま人影は地面へと降下していく。

だが表情は変わらず、寧ろ楽しげな鼻歌まで奏でている。


「……早く、逢いたいな」


そして、人影はそのまま地面に激突する事も無く唐突に消え去った。

何の痕跡も残さず、ただそこにあった事実さえも否定して存在を消失する。

それはまるで―――天使のように。

 

 

 


「さてと、祐一はどんな仕事するの?」


……二人で料理を片付けた後、一服しながら麻衣子はそう聞いてきた。

俺は特に悩みもせずに適当な仕事を指差す、依頼内容はカノンの北にあるロックウィル山脈への護衛だ。

依頼者である平民の魔術師が研究材料となる岩石を発掘する際の周囲警戒と魔物退治が仕事になる。

期限的にも融通が利きそうな依頼主なので少ない報酬でも我慢するしかないだろう。

そんな俺の選択を、少し感心するような目で麻衣子は頷いた。


「相変わらず判断が早い癖に嫌に的確ね、でもこれじゃあ私が付いてく旨味は無いかな」


便乗する気だったのか、まあこいつは先に頭で考えるよりも行動してから考える方だからな。

しかし俺はカノンに仕事をする為に来たんじゃない、だからそれほど真面目に考えてはいなかった。

元々俺達はある人の頼みが発端となってこの大陸にやってきたのだ、恐らくは彼女が滞在中の衣食住は保障してくれるだろう。

その点では今にも仕事をしたそうな麻衣子に譲ってあげてもいいくらいだ。


「まあ仕事もいいけどな、お前はちゃんと学園の事も考えておけよ?」


有名な魔術専門の学園に通う事を考えたら仕事をする暇があるのかは解らない。

……そう、不本意ながら俺達はこのカノンに魔術を習う為に魔術師見習いとしてやって来たのだ。

その事も一応麻衣子は理解しているのか難しそうな表情で唸る。

恐らくは学園生活と仕事を量りにかけて優先順位を迷っているのだろう、どちらも麻衣子にとっては楽しみなようだ。

だが俺としては非常に面倒くさい、魔術なんて戦闘の補助程度にしか考えていないからだ。

そんな魔術をわざわざ豪華な環境で習得し直すなんて事は、時間の無駄ともいえる。

大体魔術師でも無い俺達があんな有名な学園に入れるなんて、あの人はどれだけの無理を通したのだろうか。

―――そこまでして、俺達を無理矢理カノンの所属にしてどうする気なのやら。

麻衣子は兎も角として俺の存在が許されるのかどうか、見物だな。


「そうね、仕事はそこそこにしとく」


少し不満そうに麻衣子はそう言った、どうやら始めて体験する学園生活の誘惑が勝ったようだ。

俺としては麻衣子が魔術を覚える事自体は賛成している、習得しておいて損は無い。

才能の世界だと云われる魔術だが軽く習う程度なら勉強が苦手そうな麻衣子でも出来るだろう。

……これで少しは礼儀作法とか無茶な戦い方とかが矯正出来れば儲けもんである。


「……じゃあそろそろ行くぞ、約束の時間だ」

「祐一の知り合いが待ってるんだっけ?」

「あぁ、最近は全然会ってないが、な」


そう言うと麻衣子は興味深そうに頷いた、何を考えてるのか知らないがどうせ碌な事では無いだろう。

俺達はギルドの酒場を出ると雪降る街へと繰り出した、待ち合わせはカノンの南門付近に位置する平民街の中心だ。

カノンは国全体を円の形のような障壁に囲まれた閉鎖的な国だ、入り口は四方に一つずつしかない。

東西南北に設置された門は外敵の侵入を最低限に抑え、敵軍の侵略の際の防備には大いに役に立つのだろう。

だがそれ故に移動方法が限られていて、その上狭い路地が入り組む様に沢山存在している。

……これは障壁の制限のせいで国の発展が国土に追いついていないせいで起こっているようだ。

新規に土地を開拓出来ないから今在る限られた場所に隙間無く敷き詰める様に住宅や商店などを配置した為に迷路のようになっていた。

人によっては風情ある町並みかもしれないが俺達にとってはただ面倒くさい迷路のような街であり、こうして迷うのも仕方ない事だといえる。


「はぁ、待ち合わせの場所は何処だ?」


似たような景色が続く平民街を頼り無い地図と見比べながら当ても無く歩き続ける。

待ち合わせの時間は大幅に過ぎているが目的地に辿り着けない、まだ待っていてくれるだろうか。


「祐一、寒い」

「わーってるよ、俺だって寒いわ」


やはり防寒機能を果たしているか解らない外套の襟を立てながら容赦無く積もる雪を払い人気が少ない住宅街を進む。

……舗装されている平坦な道にも雪が積もっていて歩き辛い、歩いているだけで段々と体力が消費されていく。

貴族街ならば舗道に使われている特殊な発火石のおかげで雪はあまり残らない仕様になっているらしいが平民街はそうはいかない。

どうせなら待ち合わせも貴族街にして欲しかった、まあ外部の人間は貴族街に入る事すら出来ないだろうが。


「……それにしてもさ、至る所にあるこれって何かの御呪い?」

「壁に刻まれている文字の事か?」

「そうそう、確かこれって古代魔術文字よね」


古代魔術文字、物質に魔力を込めた特殊な文字を刻む事により一時的な魔術効果を封じ込める術である。

魔術効果が込められた物質は術者などから魔力を与えられると起動し封じ込められた魔術が発生する便利なものだ。

ちなみに王国を囲う壁にも同じような文字が刻まれておりそれ故に最硬強度を誇る障壁と化している。

だが古代文字を刻む事は熟練の魔術師にも難しく量産が出来ない事からあまり他国では実用化されていない。

世界最高峰の魔術大国だからこそ贅沢、あの障壁を価値にすれば一つの大陸を買い取れるほどではないだろうか。

そしてそんな古代魔術文字が平民街の壁にまでも刻まれている、だがそこからは何の魔力も感じ取れない。


「飾りじゃないか、あれはカノンの象徴のようなものだしな」


恐らくただ模したものだろう、第一高価で貴重な代物を貴族街なら兎も角平民街の至る所に刻む必要性が感じられない。

魔術国家として誇りを持つカノン市民が象徴である魔術文字のような模様を住宅の壁に彫ったのだと俺は思った。

広い世界を渡り歩いてきた経験からそのような風習が存在してもさほど違和感を感じない。

もし予想が外れてこれが本物の魔術文字だとしても、どうせ大した魔術ではないだろう。

何せ魔術が発生した痕跡が全くといっていいほど感じ取れない、偽物なのか或いは現在使われていないのだ。


「ふーん、変な風習ねぇ……」


興味深そうに麻衣子は魔術文字が刻まれた壁を見渡しながら頷いた。

麻衣子独自の危険探知からも外れたのだろう、表情は文字を発見した時と比べて幾分か和らいでいた。

そんな様子に気付かない振りをしながら俺は当てにならない地図から顔を上げ目線を元に戻す。

散々迷ったが目の前にようやく開けた広場のような場所が在り、ここなら現在位置も解り易いだろう。


「あれ、着いたの?」

「さあな、ここの広場の名前が判れば照会し易いんだけどな」

「ふーん、何か候補でもあんの?」

「……多分ここがアンゲロイ広場、かな」


俺の言葉を聞き麻衣子は呆れたように表情を曇らせた。

確かに名付けるにしてももう少しマシな名前があっただろうと思う。

特に俺達にとっては思い出したくも無い出来事を想起させる名称だった。

やはりカノンは肌に合わない、昔も……そして今も。


「まあデュナメイスとかじゃないだけいいんじゃないか」

「そんな名前の広場があるんなら私が破壊してやるわよ」


地図を見ると実際に貴族街のある広場が同じ名称なのは黙っていた方がいいだろうか。

しかし国内を神聖な場所と見立てる事による独自の名称なのだろうが、趣味が最悪である。

だがそんな事より今はここが本当にアンゲロイ広場なのか確認するのが先決だ。

俺は辺りを見渡しながら何処かに広場の名前が無いか探す、最悪今日は合流出来ず宿を見つける必要もあるかもしれない。

……そんな杞憂もあったせいなのか、背後から近付く気配に珍しく俺達は気付く事が出来なかった。


「―――雪、積もってるよ?」

 

 

 


「相沢祐一、か」


カノン学園第三校舎の屋上で一人の少年がティンクル・レイバー学園長に渡された資料と全く同じものを眺めていた。

本来は部外秘である筈の極秘資料だが、ある情報源から相応の対価と引き換えに得たものだった。

そこには相沢祐一の出身国や簡単な経歴、また所持している武装や魔道具について記されている。

基本的には何の問題も見当たらない、通常の外部編入者と何ら変わらない平凡なものだ。

……だが記載されている情報を少年はまるで信じていなかった。


「災厄を撒き散らす傍観者、か」


相沢祐一が想像の通りの男ならば経歴が詐称されている可能性が高い。

だがこの情報源は現状、依頼出来る中でも最高峰の信頼度がある情報屋から仕入れた物だ。

"彼女"が簡単に偽物の情報を掴まされたとは考え辛い、しかしそれでも少年は納得出来なかった。


「―――僅かなる灯火を我の前に現せ、"FireBall(ファイヤーボール)"」


少年は呟くように詠唱して体内に漲る魔力を変質させた球体状の炎を発現させる。

学園の敷地範囲内は魔力を生成させる為の第五元素であるエーテルが満ち溢れている為に、この程度の魔術行使は容易だ。

魔術の炎により灰へと変わっていく資料を眺めながら少年は決意に固めた表情に変化させる。


「こうなったら実力行使だな、奴の化けの皮がどんな厚味をしてるのか愉しみだ」


―――少年が静かに呟く声には、好奇心が溢れていた。

 

 

 


■次回予告■

第二話「雪の少女」
「……私の名前、まだ覚えてる?」

■あとがき■

修正版ロード★ナイツの第一話です。
書き手の都合上、過去の書き方で続けるのは中々苦しいものがあるのでこうなりました。
現在はSS小説(自作は書いてました)の執筆などを暫く控えていた為に読み辛い文章かと思いますがご了承ください。
既存設定は過去のロードとあまり変わりませんが幾つか、というより凄い量の設定が加えられています。
理解し辛い部分が多々あると思うので、苦手な人は避けておいた方が無難かと思います。
尚、過去のように毎日更新なる若さ故の無謀は出来ないと思うので、これまたご了承ください(ノ∇`)タハー
ファンタジー要素を前面に押し出しながら何処か現実世界的な雰囲気を残すという意味の解らない試みをしています。
自己満足的な小説ですが少しでも気に入ってくれたら、作者としては嬉しいです。

■用語解説■

―ギルド―
世界各地に支部が存在する地上最大規模の労働組織。
基本的には登録制でギルド正会員が送られてくる依頼を解決して依頼者から報酬を得る制度である。
しかしあまりにも依頼数が各国で多く寄せられる為に非登録員の起用を認めている。

―王立カノン魔術学園―
魔術国家とまで云われるカノンが設立させた魔術師養成機関。
幼年期から魔術を習わせる事を推奨しているカノンでは主に子供達向けに開校している。
初中高等部、更に外等部に分かれていて高度な魔術教育を受けることが可能。

―古代魔術文字―
物体に魔力を込めて特殊な文字を刻む事により指定した魔術を記憶させる事が出来る。
古代文字の解読が出来る高名な魔術師で無ければ生産するのは難しい、それ故に貴重で価値がある。
他にも近代魔術文字というものがありこちらは簡単に作り出せるが小規模であり使い捨てのものが多い。

■登場人物・読み方■

相沢祐一(あいざわゆういち)
秋桜麻衣子(あきさくらまいこ)
水瀬秋子(みなせあきこ)
ティンクル・レイバー(てぃんくる・れいばー)