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世界は矛盾を孕んでいる。

だが世界自体は、矛盾を認めず正常である事を望んでいた。

それ故に異常を淘汰し欠陥を修復する機能を持ち合わせている。

現象を知っている人間は、それを世界による「回帰」と呼んだ。

 

「奇跡を叶えた街、奇跡を起こした祈り、そして……奇跡を呼んだモノか」

ある日、雪が舞う街に漆黒の外套に身を包んだ女性が降り立った。

月明りに濡れたような流れる金髪を靡かせて、翡翠色の瞳は睨むように町並みを見下ろす。

「だが、奇跡などと言う馬鹿げた能力を発現させたとはな」

挑むような、それでいて侮蔑の表情を浮かべて吐き捨てるように呟く。

端正な顔立ちが崩れ憎悪さえ感じられるような気配が女性を包む込んでいる。

「しかし、どうやって? 街自体に何か仕掛けが在る訳でもあるまいに……」

問いかけた答えは出ずに、ただ純白の雪だけが静かに降り続いていた。

 

奇跡は確かに起こった、この街で。

だが、その奇跡が一人の少年を基点に発現した事は誰も知らない。

そう……奇跡を起こした少年さえも自覚が無いままに。

 

少年は交通事故にあってしまった叔母を救った。

少年は生きる希望がなくなってしまった従兄妹を救った。

少年は消え行く定めであった狐を救った。

少年は不幸な事故に遭い7年間も目覚めなかった少女を救った。

少年は哀しい出来事によって心を閉ざしてしまった少女を救った。

少年は未知の病魔によってもう助からないと言われた少女を救った。

少年は自らの家族を否定していた少女を救った。

少年は自らが持つ力を否定していた少女を救った。

少年は弟を失い後悔の自責を重ね続けた少女を救った。

 

少年は決まっていた世界の「結末」を異なる「結果」をもって少女達を救い出した。

……世界は矛盾に満ちている、だが世界はその矛盾を決して許したりはしない。

少年が起こした奇跡は、ゆっくりとしかし確実に廻っていた「現実」を打ち壊す。

奇跡によって壊れた破損は少なくとも、歪みは確かに存在していた。

罅の数は九つ、勿論世界はそんな些細な傷でも認めはしない。

そして、世界による「回帰」の日が知らぬうちに少年へと近づいていた……。

 


出張!奇跡を運ぶ道化師

 


独特の空気が重苦しく場に張りつめていた。

少しでも気を抜けば、文字通り喰われてしまうような弱肉強食の世界。

……手にするべきは勝利、安易な敗北は即死に繋がると思っていい。

手の平にジットリとした汗が滲んでいる。

残る時間は少ない、そろそろ決め手を引かなければ勝利が遠のいてしまうだろう。

「……俺に奇跡を、頼むっ!!」

縋る様な気持ちで残った山に手を伸ばす、誰かの息を飲み込む音が聞こえたような気がした。

俺の手が正面にある山から一欠けらのそれを掴み取り、その表面を指でゆっくりとなぞる。

違和感無く指が表面を滑った、この感覚……数ある種類から当て嵌まるのは一つ。

―――純白な大地の如く、真っ白な空白。

思わず、口元に笑みが零れる。

これこそが求めていたモノ、全ての状況を引っ繰り返す反撃の狼煙だった。

「来たぜ!! ツモ―――国士無双っ!!」

「なぁにぃ!? なんだそりゃーっ!?」

「この局面、オーラスで役満……有り得ないわ……」

「……うにゅ? こくしむそうって何?」

学生のお勤めである授業が終わり、今は放課後。

丁度名雪と香里が両方とも部活が休みと聞いたので最初、みんなで百貨屋にでも寄ってこうかという話になっていた。

しかし肝心の名雪が財布を忘れたと言い出し今日はお流れになろうとした時、北川が「んじゃみんなで麻雀でもやらないか?」といってきた。

どうやら学校の男友達と昼休みに遊ぶ為持ってきたようだ。

俺は最初呆れていたが何故か名雪と香里が乗り気だった。

名雪は一度もやった事ないという理由で目を輝かせていたがまあこれはいつものことだ。

俺的にはこういうものを香里は嫌いだと思っていたのだが意外と好きらしい。

後で聞いた事だがどうやら昼のドラマを見ていた栞が好きな俳優が麻雀をするシーンを見たらしくその後香里に無理に相手させたらしい。

最初は嫌々だった香里だったが対局して行く度にその面白さに気づき始めたんだそうだ。

今では香里の方が栞に無理に相手をさせているというミイラ捕りがミイラになってしまったような話。

「あーあ、たく!ハコになっちまった」

そう良いながら北川は空になった点数箱をこちらに見せる。

流石に役満に耐え切れるだけの貯えは無かったようだ。

喰いタン狙いばかりで速度を重視していたが香里のメンタンピンで華麗に撃沈させられていた。

「私の方も殆ど空、それにしてもそんな運だけの役満がここで出るとは思わなかったわ」

香里の方は最初地道に勝っていた事が幸いしてかハコにはなっていない、あのままいけば香里の勝利で終わっていたはずだ。

正直、満貫直撃された時は諦め気味だったのだが今では立場は逆転している。

東風なら香里に負けていたが半荘だったからこそ、この勝利が存在していた。

やはり麻雀は東風より半荘だよな、俺は一人頷きながら勝利を噛み締める。

「祐一、私も点数残ってないよ……」

名雪は最初の時点から麻雀初心者だったのであまり点数は残っていなかったのでこれはしょうがない。

流石に役を覚える事は困難だったようで終始対々和や一気通貫、七対子に重視していた。

まあだが良く善戦していた方と言っておこう、実際ビギナーズラックもあり四暗刻テンパイして居た時は恐怖を覚えた。

「はっはっはー、結果的には俺の圧勝だったがな!」

そう、麻雀の世界は過程等どうでもいい。

結果的に点数が多かった人間が文字通りの勝者に成れる。

「よし、じゃあ約束通り……一人一つだけ命令させて貰おうかな」

俺の言葉に三人は微妙な表情になった。

今回の麻雀はお金を賭けるなんて無粋な行為はしていない。

もしそんな提案をしていたのなら学年主席であり真面目っ子の香里から右ストレートが飛んで来る気がする。

意外に格闘技好きな香里の事だ、勉学だけじゃなく運動でも優秀な所を魅せてくれるかもしれない。

閉話休題、しかしながら何も賭けないというのは緊張感が薄くなってしまう。

そこで考えたのは王様ゲームの様な命令権、但し拒否権有り。

出来る範囲での命令をして欲しいという意味の拒否権であり……まあ女性陣に配慮した結果だ。

俺も北川もそんな鬼畜な命令をするほど落ちぶれてはいないが安心感も大事だろう。

「じゃあまずは……北川」

「お手柔らかに頼む」

「そうだな、まあ明日昼食にジュースでも奢ってくれ」

「……それだけか、別にいいけど」

北川は警戒したような、それでいて安心した奇妙な顔で納得する。

本当は宿題の肩代わりとか掃除当番の肩代わりとか色々考えたが優等生が隣に居る手前提案し辛い。

「まあ妥当よね」

「うん、安心したよ〜」

そんな俺達のやり取りに安心したように香里と名雪は安堵のため息をつく。

フェミニストの祐ちゃんとしてはその安心に応えたい所ではある。

……が、残念ながら期待に応えられるかどうかは怪しい次第だ。

「次は名雪だな」

「わ、何だろう?」

何故かニコニコ笑顔で首を傾げる名雪、不覚にも可愛かった。

「ごほん、名雪には……明日の昼飯を頼む」

「お昼を買えばいいの?」

「いや、弁当で頼む」

言った瞬間、名雪ではなく北川と香里が凄い顔でこちらに向いた。

まるで戦争中に相手国のショッピングモールで気楽に買い物する将官を見た一兵卒のような表情だ。

正気を疑われているような顔は、まあ納得出来るが。

何せ遅刻寸前が当たり前の登校風景が日常茶飯事の水瀬家組に爆弾を押し付けるような提案。

明日だけとはいえ爆発しない理由は見当たらない。

「うんっ、わかった」

だが名雪はまるで当たり前のように頷いた。

弁当を作るには何時もより一時間は早く起きないとまず間に合わない。

残り物を詰めるだけでも二十分は欲しい所だ。

それが毎日二人マラソンを繰り広げている名雪の口から出ると不気味である。

北川と香里も同意見なのか不思議なものを見る眼で名雪を見つめた。

「んじゃ、後は香里」

「えっ、あぁ……私ね」

呆けたように返事をする香里、余程名雪の件が納得いかないのだろう。

しかし自分の番となって名雪ばかりを気にしていられない。

……そんな動揺が見て取れるようだった。

この流れなら言える、そう確信して俺は気楽に提案する。

「香里は今度の日曜日空いてるか?」

「日曜日……大丈夫だけど?」

「そか、じゃあ日曜日は俺とデートな」

「えぇ、わかっ………………え?」

時が止まったように香里が固まった。

ある程度予想はしていたが余程意外だったようだ。

「でい、と……えっ? わ、私と!?」

「香里という名前のクラスメイトが他に居るか?」

少なくても俺は知らん、というか正直他の女子の下の名前なんてあんまり覚えてない。

しかしまるでモアイ像みたいに固まっている北川と興味津々の様子でこちらを見る名雪には触れない方がいいな。

何時か決壊すると分かっていても、何も自ら決壊させる必要もあるまい。

「それで、香里お嬢様のご返答は?」

「えっと……、本当に、私と?」

「ん、何だ嫌か? まあ嫌なら拒否権を使ってくれ、俺は気にしないぞ」

拒否させる気は全然無いが取りあえず選択肢ぐらいはあげておこう。

「えっ、べ、別に嫌じゃないけど……」

「いいんだな、それじゃあ日曜日に」

「う、うん……分かった」

未だに呆然としている香里を少し強引に口説くと意外とすんなり了承を得る事が出来た。

案外押しに弱いのだろうか、普段は完璧な癖にそういう所は本当に可愛いなぁ。

このまま弄り倒したいが後が怖そうだ、勿体無いが真っ赤になっている香里の顔を一眼レフで永遠に記録するのは止めておこう。

まあカメラなんて携帯に付いてるやつしかないが、しかも一眼レフの定義すらよく分かっていないけどな。

取りあえず柔らかそうな頬っぺただけでも突っついておくか、無意味に。

「―――☆%$#っ!?」

「おー、やわらかー」

……凄く、ぷにぷにです。

御堅い委員長タイプの香里の頬はまるで新雪のようなお餅が如く弾力があった。

さて、文字で表せない悲鳴をあげるお餅さんを放って置いて約束を取り付けた後は即座に撤退するとしよう。

混乱の最中に逃亡、意外に効果的な戦術レベルの簡単な作戦だ。

「よし、諸君……また明日なっ!」

 

 


あとがき

道化師の修正版第一話、正直に言えば設定プロット無くしたので救済措置です。

ゆったりと更新していきますが、多分このペースで行けば完結は数年後になるというある意味壮大なSS。

毎日更新出来ていたあの頃だからこその設定だったと思います、多世界移動型クロスオーバー。