「……民間人への魔法攻撃、軽犯罪では済まない罪だ」

フェイト・テスタロッサはデバイスを構えながら目の前の相手に告げる。
民間人への魔法攻撃、奇しくもそれは前にフェイトが実際に行ってしまった事でもある。
だからこそその罪の重さは知っている、フェイトは油断なくデバイスを構えながら一歩距離を詰めた。
それを見て赤い少女はハンマー形のデバイスを構えると鋭い眼光でフェイト達を射抜く。

「あんだてめぇ、管理局の魔導師か?」
「時空管理局嘱託魔導師、フェイト・テスタロッサ」

そう名乗りながらデバイスから飛び出した魔力の鎌の刃を向けた。
既に戦闘準備は整っている、少しでも動きを見せたら対応できるように軽く腰を落とす。
相手は間違いなく熟練者、判断を誤る訳にはいかない。
一瞬でも隙を見せる事は自らの敗北に繋がる。
それほどまでに目の前の相手は見えぬ威圧感を放っていた。

「抵抗しなければ弁護の機会が君にはある、同意するなら武装を解除して……」
「―――誰がするかよ!!」

赤い少女はそう言い放ちながら後退する。
その行動には迷いがなく、激情に流されない冷静さが残っている事が理解できた。
フェイトはビルから外へと飛び出した少女を追うべく窓へと跳ぶ。
ここで逃がせばまた誰かが襲われる事になるかもしれない、そんな事を許すわけにはいかなかった。

「ユーノ、なのはをお願い!」
「わかった」

飛び立つ刹那、フェイトは後ろを僅かに振り返る。
―――そこには守るべき、大切な友達が不安そうにこちらを見ていた。

 

魔法少女リリカノンなのは
第十三話
「混戦と思惑」

 

「さて、急がないとな」

その頃、祐一は市街地をなるべく避けながら高度を保ち飛行していた。
オールレンジアタッカーである祐一では使い魔である真琴ほどの速度は出ない。
フロントアタッカーとして特性が高い真琴は飛行速度もかなりのものだ。
故に真琴の接敵から少し遅れての到着となるだろう。
だがその点に対しては祐一はそんなに心配していなかった。
どれほどの相手でも、真琴がそう簡単に墜ちるとは思えない。
更に保護の対象が高町なのはだという点も大きかった。
フェイトとの戦闘記録を見るに高町なのはは強い。
模擬戦を経験した祐一だからこそ理解する、AAAランク魔導師の実力を。
B+の自分自身では手も足も出なかったのだ。
真琴が到着すれば戦局は一気に傾くだろう。
―――しかし、それは敵が一人ならばの話だが。

『Master(主)』
「どうした、リューナ」
『"Schneiden mode?"』
「……いや、使用する気は無い」

リューナの提案に祐一は軽く首を振る。
確かに"それ"を使えば頼もしい、だが祐一はそれを使う気は無かった。
祐一としては普通のインテリジェントデバイスがあるというだけで頼もしい。
力の使いどころは見定めなくてはならない。
武装局員として、1011部隊の隊長としても。

「場合によってはフルドライブするが、モードはベシースングだけで十分だ」
『……All right(わかりました)』

少し不満そうだがリューナは納得する。
リューナとしては使用者が負ける事を極端に嫌うために不安要素を残したくないのだろう。
祐一のデバイスとして、例え小さい蟻にでも全力を尽くし勝率を100%以上にしたいのだ。
それを知っている為に祐一はリューナに苦笑で答えた。
万が一にも負けたくない、そんな気持ちを常に持つ相棒があるというのはいい事だ。
精神的な支えにもなるし、戦闘面での意欲向上にもなる。

「―――リューナ、急ぐぞ!」
『Yes, My master(はい、我が主)』

 

 

 


「―――バルディッシュ」
『"Arc saber"(アークセイバー)』

フェイトは構えたデバイス、バルディッシュから金色の刃を飛ばした。
向かう先は赤い少女、最早言葉による制止は意味を持たない。
それを見た少女は冷静に腕から四つの銀色の球を取り出すとそれぞれを指の間に挟んだ。

「グラーフアイゼン!」
『"Schwalbe fliegen"(シュヴァルベフリーゲン)』

そして手に持った四つの銀色の球を宙に放り投げると、逆の手に持ったデバイスで全て叩きつけた。
打ち出された銀色の球は魔力を込められて凄い勢いでフェイトへと向かう。
フェイトが放った金色の刃と少女が放った銀色の球は擦れ違いそれぞれの標的に向かって行く。
先に放った金色の刃が少女へと届く、だが少女は避けずその場から動かなかった。
ハンマー型のデバイスを構えてその一撃を待つ。

「障壁!!」
『"Panzer hindernis"(パンツァーヒンダーニス)』

赤色の魔力光と共に前面に防御障壁が生じた。
金色の刃は障壁に触れると火花を散らし少女を蹂躙しようと迫る。
だが、少女が張った障壁は強固であり……刃がそれを破る事は出来ない。
魔力で作った刃が遂に障壁に負けて四散する。
そして、今度は少女が放った銀色の球がフェイトへと届く。
フェイトは迫る銀色の球を見て、回避行動に移る。
しかし少女が放った四つの球はフェイトを追尾した。
思わずフェイトは眉を顰めながらも得意の高速旋回で球を振り切ろうと速度を上げる。
それを見て、赤い少女は次の行動に移ろうとした。
相手には自分が放った攻撃を完全に防御するだけの力がない。
そう確信して、少女は一歩前に出る。
―――しかし……その時既に少女の下から接近する影があった。

「バリア―――」
「…………何!?」
「―――ブレイクッ!!」

少女の足下から迫ったその影は拳を振りかぶると、そのまま突き出した。
障壁に拳が接触する、だが次の瞬間少女の障壁は音を立てて崩れた去る。
バリアブレイク、その名の通り特にバリアタイプの防御魔法に効果があるアンチ魔法。
強固な障壁でもバリアブレイクにかかれば大抵破壊されてしまう。
一種の高等技術とも言える結界破壊魔法だ。

「この……野郎!」

少女は障壁を破壊された事によるショックと怒りで標的を襲いかかってきた者に変更する。
デバイスを振りかぶって足下に迫る影へと振り下ろした。
単純な打撃だが、少女のような強力な魔導師が繰り出すとなるとかなりの破壊力になる。
バリアを破壊した影は咄嗟にシールドを張ったが、少女の一撃には耐えられなかった。

「―――うわぁぁ!?」

一瞬にしてバリアは砕かれて地面へと真っ逆様に落とされる。
少女はそれを確認して、しかし次に迫る脅威に気づく。
顔を向ける暇もない、ただ避ける。

『"Pferde"(フェアーテ)』

少女が持つデバイスが叫ぶ。
その瞬間少女の足下に小さな竜巻のような魔力が渦巻く。
高速移動魔法の恩恵を受けて少女は即座にその場から移動する。
―――刹那、眼前まで迫っていたフェイトのデバイスが先ほどまで少女の身体があった場所を通過する。
金色の魔力で出来た刃が少女が居た場所の空気を切り裂く。
その音を聞いて少女は流石に冷や汗を隠せない。
一瞬でも遅れていれば喰らっていただろう、その事に驚愕を覚える。
先ほどの相手、フェイトは自分の球を避けられなかったんじゃない。
避けるタイミングを計っていたいのだ、恐らくは彼女の使い魔との連携の為に。

「……くっ!」

少女の口から苦悶の声が漏れる。
流石に二対一は辛い、しかも中々のコンビネーションだ。
元々初めて相対した時にフェイトの魔力の大きさには驚いたものだったが、少女はまた更に認識を改める。
―――間違いなく、強敵だ。

「……はぁ!!」

フェイトが更に迫る。
次こそは昏倒させようとデバイスを振りかぶった。
避けきれない、少女はハンマー形のデバイスで迎え撃つ。
火花が散ってデバイス同士が押しつつ押されつ一進一退の攻防をみせる。
少女は舌打ちをしてフェイトの顔を睨む。
……少女は内心で迷っていた。
相手は確かに強敵だ、しかし今すぐ倒せない……というほどではない。
恐らくは本気を出せば倒す事は可能だろう。
しかし、少女の目的は相手の撃墜ではない。
それが少女の決心を鈍らせ動きを低下させていた。

「フェイト!」

下からそんな声がする。
先ほど落とした使い魔だろう、だがそれを気にしている暇は無い。
少女は苛立たしそうにフェイトの攻撃に耐えていた。

 

 

 


夜空で戦う姿を、ビルの屋上に上がったユーノ・スクライアと高町なのはは眺めていた。
なのははユーノの回復魔法で少しずつ回復しているものの損傷は大きい。
すぐに戦闘に復帰できるだけの体力は残っていなかった。
ユーノもなのはを残して向かうのは心配だ、それにフェイトは善戦している。
それに彼女には、使い魔であるアルフも一緒だった。

「アルフさんも来てくれたんだ」
「クロノ達もアースラの整備をいったん保留にして動いてくれてる」

ユーノはなのはを安心させるようにそう言った。
その視線の先ではアルフがフェイトに加勢しようとバインドの魔法を唱えていた。
アルフは狼の元に作られた使い魔であり、今は人間の姿をとっている。
しかし名残として耳は犬型で尻尾も付いている。
フェイトより頭一つ分大きく体格も戦いやすいように成人女性並みの身長があった。
アルフが唱えたバインドが遂に少女の手足を拘束した。
それを見てフェイトは少女から少し離れて油断なくデバイスを構える。

「終わりだね、名前と出身世界……目的を教えてもらうよ」

なのは達にも届くくらい、はっきりとフェイトはそう告げる。
それを見て思わずなのはは軽く安堵のため息をついた。
どうやら気を張り過ぎていたらしい、しかし改めてフェイトの力を目の当たりにした。
自分では歯の立たなかった相手に対し優勢を維持して勝利する。
それは友達として誇らしくて、それが嬉しかった。

「フェイトちゃ……」

小さく、話かけようとして―――だが刹那、息が止まった。
その異変を感じ取ったのはなのはだけじゃない。
フェイトの隣に控えていたアルフも危機感を感じ取る。

「何か拙いよ、フェイト!!」

アルフの叫びがビル街に木霊する。
しかしそれを確認する前に、フェイトは目の前に現れた人影に気づいた。
それは眼下から飛び出してきた剣、そしてそれを操るのはまるで騎士の格好をした女性。
フェイトの思考がその人影を認識した瞬間、それは振るわれた。
慌ててデバイスで迎え撃つが破壊力が違う。
フェイトは弾き飛ばれるように後方へと吹き飛ばされた。

「シグナム……?」

少女の口からそんな名前が漏れる。
その騎士、シグナムは剣のデバイスを構えながらバインドに拘束された少女を守る様に空へと上昇する。
アルフが吹き飛ばされたフェイトに合流しようと混乱しながらも体勢を変える。
だが―――次の瞬間、シグナムと同じように急に現れた人影によりアルフは蹴り飛ばされた。
障壁を張る時間も無い……アルフは体一つでその蹴りを受けた。
アルフを蹴り飛ばしたその人影は、空中で静止してシグナムと同じように少女を庇う位置で停止した。
その姿はまるでアルフと同じような格好だ、だが異なるのは相手が男性型であるという事。
褐色の体は鍛え抜かれたものであり、腕には手甲がはめられている。
フェイトは急に現れた二人を睨むように空中で体勢を整えた。
そんなフェイトを一瞥して、シグナムは剣のデバイスを空へと掲げる。

「レヴァンティン!」
『Explosion(爆発)』

デバイス、レヴァンティンの内部機構が弾丸をセットする。
空薬莢が一つ……空中に放り出された。
直後、レヴァンティンの刃に燃え盛る炎が宿る。

「―――紫電一閃っ!!」

シグナムが空を駆ける、向かう先にはフェイト。
シグナムは炎に包まれたデバイスを振りかぶり、フェイトは避ける事叶わずデバイスで迎え撃つ。
しかし―――それは一瞬の出来事だった。
レヴァンティンが振り下ろされて、バルディッシュの杖の持ち手をまるで砂の城の如く両断する。
まるで抵抗できず、フェイトのデバイスは横に真っ二つになった。
フェイトの表情が驚愕に染まる。
……見た事が無い術式に、この威力。
油断していたわけではないが、相手は予想以上の使い手。

「―――はぁ!」
「…………!?」

即座にシグナムの第二撃が迫る。
だが既にフェイトが回避行動に移れる時間など、無かった。

『"Defensor"(ディフェンサー)』

バルディッシュが自動防御障壁を展開させる。
しかし……焼け石に水とでも言わんばかりにその障壁すらシグナムの前には無いも同然だった。
レヴァンティンの一撃がフェイトをあるビルの屋上へと落下させる。
フェイトは成す術無く強力な斬撃を受けて墜ちていく。
悲鳴すら上げる隙も無かった、完璧な奇襲であり、強力な攻撃だった。
フェイトが墜ちる、救いはバリアジャケットをまだ纏っていた事だ。
なのはと同じようにバリアジャケットをパージしていたら、次の衝撃には耐えられない。
意識が飛びそうになりながらも、フェイトは無理矢理眼を開けた。
迫るビルの屋上、最早止まる事は出来ない。
……そう、思っていた。

「あぁぁぁぁぁぁぁうぅぅぅぅぅぅぅ!?」

最初、その叫び声はフェイトが自分自身が発したものだと思っていた。
だが……可笑しな事に、それは真横から聞こえてくる。
そして見開いた眼で、それを見た。
迫る白い巫女装束のようなバリアジャケットに包まれた少女の姿を。
―――そうだ、忘れていた。
そう言えば―――彼女達もこの地球に滞在していたのだ。

「間にあったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

そして―――沢渡真琴は両手を伸ばしてビルに直撃する直前のフェイトを捕まえた。
体から魔力光である橙色を撒き散らして。
まるでお姫様抱っこのような体勢でフェイトを受け止めたのだ。

「ま、真琴?」
「あぅ〜、よかったよ〜」

呆然とするフェイトの顔を見て、真琴は泣きそうな溜息を洩らす。
幾ら高速で移動する事が可能な真琴とは言えども、その移動速度のまま細かい動きをする技術まではまだない。
真琴が出来るのは一撃必殺、中央突破といった突撃行為だけだ。
ある意味一か八かの勝負だったが、それも仕方なかった。
何せ真琴がここに到着したのは今し方で、最初に見たのがフェイトが落下した直後だったからだ。
一瞬で思考が飛び、体が勝手に動いたとしか言いようがない。

「でもこれで模擬戦の借りは返せた〜」

まだ涙目の真琴だが、フェイトを地面に降ろすと上空に居る三人を睨みつけた。
魔力光が吹き荒れる……橙色の光が真琴を中心に渦巻いていた。

「あぅ〜、あんた達が何者か知らないけど―――真琴の友達に手を出したわね!」

真琴が叫ぶ、それと同時に……真琴の耳が狐耳へと変化した。
そして―――ゆらりと尻尾が生える。
真琴は狐の使い魔だ、しかし普段は人間の姿を気に入りこれらを隠している。
だが、感情の高まりと共に魔力を解放すると……使い魔としてあるべき姿へと戻るのだ。
航空武装隊第1011部隊隊長、相沢祐一の固有戦力―――使い魔、沢渡真琴へと。

「―――絶対に許さないんだから、あんた達真琴が全員逮捕してやる!」

混戦は続く、そして……更なる波乱を呼び寄せる。
相沢祐一が―――もうすぐそこまで迫っていた。

 

 

 


あとがき
GW疲れとは厄介なもので数日動けませんでしたorz
さてさて、リリカノンですが……取りあえず動き優先に書いたら描写が力不足かな?
どちらか優先にしないと書けない自分、駄目駄目だ(ノД`)
時間をかけられればいいんですが、そこまで緻密に書く気もないのg(ry
現状はリリカルなのは第二期で終わろうかと思ってます。
三期まで行ったら大変な事になりそうなので。
うーむ、本当は物語のメインが三期なんだけどなぁ(=ω=;)

 

■SS辞書■

―リューナ(正式名称ではない)―
■インテリジェントデバイス(IntelligentDevice)
使用者:相沢祐一
謎が多いデバイスで自立行動率が高い。
正式名称が別にあるが本人がリューナという略称を気に入っているらしい。
ちなみに名付け親は祐一、正式名称が呼びにくいという理由で呼び始めた。
□スタンバイモード(StandbyMode)
待機モード
□デバイスモード(DeviceMode)
標準モード
□ベシースングモード(BeschiesungMode)
砲撃モード
□シュナイデンモード(SchneidenMode)
??モード