海上を高速で飛行する白い影を無数の黒い影が追っていた。
黒い影達は高速で移動する白い影に一斉に狙いを定め、不気味に口を開く。
まるで鮫の歯のような不揃いの生え並びをしている口内に、一瞬で小さい魔力が集束する。
砲撃魔法集束型、魔力砲撃の体勢に入った事を白い影は認識する。
一体一体の砲撃ならば避けるまでも無いが、これほど多くの敵からの一斉攻撃だ。
既に回避は難しく、そして防御しても防ぎきれるか不安だ。
思わず冷や汗が流れるが、一瞬で振り切り決意を新たに白い影は急停止をする。
―――白いリボンが、風の動きに合わせて激しく靡く。
白い影が止まった事を確認した黒い影達は取り囲むように周囲に展開する。
最早逃げ場は無い、そして……逃げる必要も無い。
黒い影達が空中で静止する、口内では相変わらず砲撃のチャージが続いていた。
それを確認して、白い影は手に持ったデバイスで風を切る。
―――赤い水晶が、日の光にあたって鈍く光り輝く。
黒い影達は、チャージを終え一斉に口を閉じる。
その行動は不気味だが……白い影は沈黙してその光景を見守る。
今自分がするべき事は眼を背ける事じゃない、眼を見開く時だ。

「―――レイジングハート、お願い」
『Shooting mode, Set up(射撃態勢セット完了)』

呟く声は、聞くものが聞けば場違いなほどに幼かった。
だがその声を聞き、デバイスであるレイジングハートはシューティングモードに移行した。
何の迷いもなく、自らの主人を信じるが故に意思を行動で示すように。
―――風に晒され、胸の赤いリボンが揺れた。
……そして遂に黒い影が一斉に口を開いた。

「「「「――――――っっっ!!!!!!」」」」

それを、揺れる瞳でその"少女"は確認する。
全方位からの集束砲、間違いなく直撃コースだ。
今の自分の回避能力では避けきれない。
だが、避けきれないなら避けきれるようにしてしまえばいい。
少女の視線が下に展開している黒い影達に向かう。
下は海、展開している影達の数も一番少ない。
迷わず少女はデバイスを下へと向ける。
砲撃が迫る、だが少女の視線はもう既に自らの目標へと向いていた。

「ディバイン―――」
『"Divine(ディバイン)』

少女の足もとに、ミッド式魔方陣が出現する。
それは―――まるで目の覚めるような桜色。
レイジングハートの杖先に凄まじい速さで魔力が集中する。

「―――バスタァァァァ!!!」
『Buster"(バスター)』

瞬間、レイジングハートから膨大な量の魔力が放出された。
展開していた黒い影の一団は"集束砲"を"直射砲"に掻き消され、そしてそのまま直撃を受ける。
少女の下方に存在した黒い影は数を減らし随分と動きやすいエリアになる。

『"Round shield"(ラウンドシールド)』
「わ……っ!?」

少女が砲撃した直後背後から迫っていた集束砲が命中する。
だが直前にレイジングハートはシールドを張り瞬間的に砲撃を弾く。
それを確認して少女は一気に海へと向かって降下した。
刹那、瞬間的に砲撃を防いでいたシールドが抜かれる音が背後から聞こえる。
まさに間一髪、少女は海面擦れ擦れまで降下するとそこで停止した。
振り向いて、残る影達を見上げる。
砲撃を外した影達は一ヶ所に集まっているようだ。
そして……影達はその体をぶつけ合いながら集結していく。

「―――そんなのあり!?」

その様子を見て、流石に少女も驚きの声をあげた。
見ると影達は"合体"し一メートル程度だった個体は五メートル近い巨人に変化していた。
最早何でもありの相手に少女は焦ったようにデバイスを向ける。
あの個体数が合体したのだ、ならばその魔力量も半端なものではない。
それを裏付けるように黒い巨人はその巨大になった口を開き、少女へと向けた。
口内に魔力が集束していく、先ほどの個体一体辺りが武装隊でいうCランク程度の魔力量だ。
ならばそれらを合体させたあの巨人は、控え目に見てもAAランクは固いだろう。
だから―――少女は笑った。
それは悲愴の笑みではない、勝利を確信させる笑みだった。

「レイジングハート、行くよ!」

―――何故なら、元より少女はこういう単純な砲撃戦の方が大得意なのだから。
少女の足もとに、先ほどとは比べ物にならないほどの巨大な魔方陣が展開する。
黒い巨人も口内の集束を速める、どうやら少女が何をしようとしているのか理解したらしい。
だが、既に準備段階に入っている為に解除は出来ない……だから黒い巨人は集束を急ぐ。
しかしその威力故に時間がかかってしまっているようだ。

「―――全力全開!!」

レイジングハートと少女の目の前に、巨大な魔力の塊が出現していた。
その巨大な塊は、今も尚光を集めドンドン膨大な魔力量へと変質していく。
そして、少女はデバイスを振りかぶると、その魔力の塊に向けて勢いよく振り下ろした。
……黒い巨人もようやく集束を終え、口を閉じる。
やはり巨大が故に動作が遅く、後から詠唱した少女と発動タイミングが同時になってしまった。

「スターライト……ブレイカァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
『"Starlight breaker"(スターライトブレイカー)』

そして、辺り一帯は、強力な魔力光によって満たされた。

 

魔法少女リリカノンなのは
第四話
「魔法少女」

 

(やった、勝った!)
『perfection(完璧です)』

思わずガッツポーズをする少女。
勝てる設定とは思っていなかっただけにその勝利の嬉しさは格別だった。
今回の勝利はレイジングハートにも予想外だったらしい。
常に控えめの評価を下していたレイジングハートが珍しく最高のほめ言葉を贈る。
その事がまた嬉しくて少女は笑顔になり手に持っていた待機モードのデバイスを机の上に置いた。
っと、その時……少女の前方から呆れたような声があがる。

「高町さん? どうしたんですか、質問?」
「ふぇ? い、いえ…違います!」
「そう、だったらもう少し集中して聞いてね?」
「は、はい……ごめんなさい〜」

黒板から振り返った教師に、少女…高町なのはは注意され小さくなった。
それを見ていた周りの生徒は、軽く笑いを飛ばす。
なのはは頬を赤く染めて更に小さくなった。
流石に失態だ、教師が前を向いていたから注意を怠ったらしい。
幾らレイジングハートとの訓練の最中だったとはいえ、もう一つの思考を止めてはいけなかった。
……今、なのはが行っていたのはレイジングハートによる仮想戦闘訓練だ。
心の中で送られてきた敵の情報を認識してフィールドを作成しその中で戦う。
リアルなイメージトレーニングといえばわかりやすいかもしれない。
しかもこのトレーニングはレイジングハートにより鮮明な訓練となる。
思考を巡らし勝つ為に戦術を考え敵を打倒する。
そして、その一方で学校の授業も受けていた。
勿論心の中では戦闘をこなすが、頭の中では授業と戦闘の両立。
魔導師にとって思考を二つ以上並列に処理するマルチタスクは必要不可欠なものとなる。
戦闘においては防御魔法を一瞬で組み尚且つ攻撃魔法を用意したり、複数の相手の戦力や状況を同時に確認する。
そういう思考を持つ事は非常に重要な意味を持っているのだ。
だからこそ、なのは達はこの類の訓練を毎日欠かさず行っている。

(あはは、失敗失敗)

なのはは内心でそう呟くと勉強に集中し直す。
戦闘中に行われていた授業の内容はキチンとノートには取ってある。
恐らく今教師にあてられてもなのはは何の問題もなく答えられるだろう。
最初の頃は思考の両立に対し少し混乱していたが最近は並列に進める事が出来るようになった。
勿論それは思考が単純化しているわけではない、複雑極まりない戦闘を必死でこなしている。
やはりどんなに慣れても大変な事は大変なのだ。
だがその甲斐あって、恐らく現実世界でもイメージの中と同じぐらいに戦えるだろう。
なのはにとって訓練は苦痛ではない、寧ろ新しい事を次々に覚える事に喜びさえ覚えている。
戦闘自体はそれほど好きではないが、自分を鍛える事は楽しい。
……そんな毎日だった。
―――私立聖祥大学付属小学校三年生の高町なのはは魔導師だ。
しかも普通の魔導師ではない。
その素質は九歳にして既に魔導師AAAクラスの優秀な魔導師なのだ。
まさに天賦の才というに相応しいものを持っている。
彼女のデバイスは、インテリジェントデバイスのレイジングハート。
ミッドチルダ式魔導師が扱う意志を持った杖、大変高度な代物である。
……そしてプレシア・テスタロッサ事件に関わった民間協力者。
ロストロギアであるジュエルシードを巡り戦った魔導師だ。
ひょんな事から魔法と出会い、そして事件へと巻き込まれた少女。
だが今ではそんな事件も終わり、平穏無事な世界へと帰還していた。
ただ一つ、自分が魔導師になった事実を抜かしては。

(そういえばフェイトちゃん……元気かな)

フェイト・テスタロッサ。
ジュエルシードを探索していたなのはの前に突然現れた魔導師。
巻き込まれたなのはとは違い、自らの意思によってジュエルシードを集めていた少女。
当初はなのはと幾度か衝突したりもした、今では友達の少女。
悲しい事はあったけど、それを強く気丈に乗り切った心の優しい子。
そんなフェイトを、なのはは友達として尊敬していた。
あの事件の後、友達になったフェイトとは今でもビデオメールなので近況を報告しあっている。
本当ならば直接会って話したい事も沢山あるのだが、今フェイトは重要参考人として管理局にいる。
―――今はまだ会えないが、何時か会える日を祈っていた。

「なーのは! いつまでボーっとしてんのよ!」
「うわぁあ!?」

考え事をしていたなのはの頬っぺたが急に引っ張られる。
なのはは驚いて頬っぺたを引っ張る手の出所を探る。
するとそこには、なのはと同じ年ぐらいの金髪の少女が立っていた。

「ありふぁちゃん?」

なのはの頬を引っ張っていたのはアリサ・バニングス。
小学校の仲良しグループの一人でなのはの親友だ。
アリサは何故か呆れたように溜息を吐きながらなのはの頬っぺたを引っ張っていた。

「授業終わったのに何でボーっとしてんの、ほらお昼食べに行くよ」
「………ふぇ?」

頬っぺたを引っ張られたままなのはは辺りを見渡す。
……するとそこには先程まで真面目に授業を受けていたクラスメイトの姿は無かった。
ある者はお弁当を広げ、ある者は食堂に食べに行こうと席を立つ。
どうやらなのはがフェイトの事を考えている間に授業はとっくに終わってしまったらしい。

「…………あふぇ?」
「このおバカ、すずかも待ってるんだから早く眼を覚ましなさーい!」
「いふぁいよーありふぁちゃんー!!」

なのはの涙目の抗議に耳を貸さず、アリサは頬を引っ張りながらなのはを連れて教室を出て行った。

 

 

 


その日、第1011部隊に緊急の要請が飛び込んできた。

「緊急任務……ですか?」
『そうです、月宮空曹長』

あゆの確認に時空管理局本局のオペレーターが冷静にそう答えた。
緊急でしかも部隊を直接指名、"隊長"が不在にも関わらず第1011部隊を選ぶ。
流石にあゆは驚いた、確かに武装隊は人員不足だが今この状況で重要な任務がこちらにまわって来るとは思わなかった。

「他の部隊では駄目なんですか、まだ手の空いてる部隊はあると思いますけど……」
『第1011部隊に要請なのです』
「でも祐……えっと分隊長は今休暇中ですが」
『月宮副隊長が居れば、他の隊員は動かせませんか?』
「一応小隊指揮は出来ますけど……」
『ならば問題ありません』
「……わかりました」

あゆは通信を切った後、誰にも聞こえないように小さくため息を吐いた。
あまりにも不可解だ、何かがおかしい。
別に武装隊として行動するのは勿論初めてじゃない。
現隊長、相沢祐一が不在の時も確かにあった。
だが今回の任務は何処か変だ、何故今この状況で第1011部隊なのか。
ただでさえ先の戦闘により人員が減少した部隊、しかも現在隊長は不在。
このような状態でまともに機能するとは思えない。
動かすのならばせめて人員の補強が最優先だろう。

「まあでも仕方ないよね、任務だし」

何の為に管理局があるのか、その意義を見失ってはいけない。
昔、相沢祐一に月宮あゆが言われた事がある言葉だ。
だからあゆは一回頬を軽く叩くと目を覚ますように首を振った。
そして通信室から出て武装隊の詰所に向かう。

「デニム君、居る?」
「はい、月宮副隊長」

あゆがそう言いながら詰所のドアを開ける。
すると椅子に腰かけてデスクワークに勤しんでいた少年が立ち上げり敬礼をして答えた。

「今すぐ部隊を招集、モミジとクリスに連絡」
「え……あ、はい! 了解です!!」
「10分で用意してね、装備は強行探索装備」
「10分で強行探索装備にて集合します!」
「うん、よろしくね」

嫌な予感は抜けず、あゆは不安そうに敬礼をしてすぐに駆けて行ったデニムの背中を眺める。
実は不安は人員不足なだけではない、今活動出来る隊員にも問題はあった。
全体的に経験が薄い、悪く言えば素人集団だ。
元々居た隊員の殆どは前の戦闘で入院やら転属になってしまっていて、満足に動けるのは管理局に入って間もない局員だけだ。
幾らあゆが小隊指揮の資格や教官資格を持っていたとしても全体的に鍛えられていない部下を上手く扱える自信は無い。
それに武装隊は部隊のチームワークが必要な部署だ、だがその練習すら合格ラインには程遠い。
一般的な新人と比べたら優秀な方なのだが、こうした任務を任せられるほどには熟してない。
あゆの心労は積もる、不安に駆られ窓から空を見上げる。
―――第1011部隊の隊長は、数日前から休暇中だ。
帰ってくるのは、まだ先のようだった……。

 

 

 


「お前……何者だ!」
「悪いが名乗っている暇は無い」

第64管理世界、森林地帯でシグナムは管理局員と思われる男に剣を向けていた。
―――男は慌てたようにデバイスを取り出す。
しかしそれに対しシグナムは黙って見つめていた。
男はそれを侮辱と取って憤怒の表情でシグナムへとデバイスを向ける。

「この……っ!!」

局員が持つストレージデバイスから魔力砲が放たれた。
だがシグナムはその魔力砲を確認しながらも不動。
ただその場で男を黙って見つめている。
そして魔力砲が当たる直前、デバイスが輝きだす。

『"Panzergeist"(パンツァーガイスト)』

シグナムの甲冑に紫色の魔力光が満ちる。
男の局員が放った魔力砲はシグナムの腹部に直撃した。
だが、魔力砲はシグナムの甲冑に当たった瞬間弾け飛ぶように消えさる。
強力なフィールドタイプの防御魔法。
局員はそれを確認すると瞬時に思考を切り替える。
真正面からわざわざ砲撃を受ける意味、それは絶対の自信だ。
局員の力を計り、最早避ける必要さえ無いとすら判断したのか。
男は驚愕に埋め尽くされるが、しかし次の行動は素早かった。

「くそっ……!!」

……シグナムに背を向けて逃げ出す。
それを見ながら、シグナムは剣を鞘に収めた。
そして疲れたように溜息をつく。
行動力は悪くない、思考も正確だ。
だがそれだけで逃げ切れるなど……ベルカの騎士を前にはありえない。

「……穏便に済ませる気はないが、まだ私なら手加減出来たものを」

呟く声は、誰にも届かず。
局員が消えた空へと視線を送る。

「殺すなよ、ヴィータ」

局員はそんなシグナムの呟きを聞く事も無く、空へと舞い上がっていた。
移動能力ならば自信はある、男は心の中でそう納得させる。
相手は見た事もないような防御能力を見せてこちらの攻撃が届かない。
一対一では勝ち目がない、ならば……後は管理局の武装隊にでも任せてしまおう。
元より自分は戦う者ではない、扱える魔法など限られている。
戦闘行為など、管理局入隊以来ここ数年行った事がない。
それに相手は間違えなく一級の魔導師。
恐らくは武装隊でもそう簡単には相手を止められはしないだろう。
だから今は逃げて、管理局に連絡を取って1個中隊でも呼ばなくては―――。

「くそ……しかし何が狙いだ、あの女っ!!」
「―――てめーのリンカーコアだよ」

瞬間、局員の息が止まる。
男の誰に対してでもない独り言に、答える声があがった。
局員が顔を上げると……前方に赤い人影が浮かんでいた。
それは、見るからに幼い少女だった。
赤いバリアジャケットを身に纏い鋭い目つきで局員を睨んでいる。
そして何より不気味なのが、手に持った不似合いなハンマー型のデバイス。
あまりに凶悪なその姿に……局員は恐怖に身を竦ませた。

「な、何者だ」
「鉄槌の騎士……ヴィータだ」
「……何故俺を狙う?」
「何度も言わせるな、狙いはてめぇのリンカーコアだ」
「くそっ、こいつ!!」

局員は慌ててデバイスを少女、ヴィータに向ける。
シグナムには効かなかったそれを……しかし目の前の少女には効果があると賭けた。
魔力を総動員し、一気に勝負に出る。
だが、ヴィータはシグナムのようにその場で立ち尽くす事はしなかった。

「グラーフアイゼン、カートリッジロード!!」
『"Explosion"(爆発)』

ハンマー形のデバイスが内部機関に設置されたシリンダーから"弾丸"を装填する。

『"Raketen form"(ラケーテンフォルム)』

そして次の瞬間、ハンマー型のデバイスはその形を大きく変えた。
ハンマーの片方はドリル状に、もう片方はまるでジェット機のエンジン如く変形する。
それを見ながら、局員は焦ったように魔力砲をチャージする。
だが、ヴィータの行動は素早かった。
両手で持ったデバイスから、エンジンが点火される。
するとデバイスは火を噴きながらヴィータを中心にして回転しだした。
まるでハンマー投げでもするように少女の体も一緒に回り出す。
そして大きく円を数回描いた後、ヴィータとデバイスは局員に向かってジェット噴射に乗り接近し始めた。
直後局員のデバイスから魔力砲が放たれる。
だがヴィータはそれを気にした様子も無いように局員へと向かって行った。

「馬鹿な……!?」

局員はそれを見て慌てて回避行動移ろうとする。
しかし間に合わない、ヴィータはバリアジャケットで魔力砲を無理やり弾くとそのまま攻撃に移った。

「ぶっち抜けええええええぇぇぇぇぇぇ!!!」

ヴィータは叫びながらデバイスを振り下ろす。
スピードがついたデバイスは高速で局員へと襲いかかる。

「ら、ラウンドシールドっ!!」

局員は慌てて防御魔法を展開する。
デバイスはシールドにぶち当たりその動きを止めた。
ドリルの回転がシールドと擦りあい火花を散らす。
あまりの衝撃に局員は体中激痛を感じるが、それでもまだ耐えている。
僅かばかり続く拮抗に、しかしヴィータは退かずそのまま叫んだ。

「―――ラケーテン……ハンマァァァァァァァァァァ!!!!!!!」
「……な、何!?」

ラウンドシールドが軋みを上げ、魔法陣にヒビが入る。
強固な筈の防御魔法が、正体不明のデバイスに砕かれようとしていた。
そして―――遂にヴィータのデバイスがシールドの強度を完全に上回る。

「―――ひっ!!」

……思わず喉が鳴る。
次の瞬間、まるで鏡の割れるような音が辺りに響き渡った。

 

 

 


「無茶をしたな」
「うるせーよ」

戦闘終了後、シグナムは地面へと降りてきたヴィータの頭を軽く撫でた。
ヴィータは不貞腐れたように頬を膨らませる。
その姿は年相応なのだが先ほどの戦闘の後だと違和感がある。
しかしシグナムは気にした様子も無く軽く苦笑をする。

「防御もせずに体一つでぶつかるとはな」
「だからうるせーって、いいじゃんか……勝ったんだから」
「だがお前が怪我したのでは主が心配する」
「…………」

シグナムの言葉にヴィータは口を閉ざした。
そしてヴィータは魔力砲が当たった個所を手で撫でた。
バリアジャケットが少し破れている。
恐らく痣程度にはなっているだろうが、身体的には何の問題もない。
だが、この痣を……見られたくない人に見つかったらどういう反応を見せるだろうか。

「戦い方を考えろ、お前にはそれが出来る筈だ」
「……分かったよ、気をつける」
「分かればいい、私は闇の書の様子を見てくる」

そう言い残しシグナムはその場を去った。
ヴィータはそれを確認すると、すっかり暗くなった夜空を見上げる。
第64管理世界の夜空には、輝く星が静かに揺れていた。

「…………はやて、待ってるかな?」

―――呟く声は、何処か寂しさを帯びていた。

 

 

 


あとがき
ちょっと書き直しました。
多分分かる人は少ない程度、二日酔いのせいで誤字やら色々あったので修正。
内容自体はそれほど狂ってなかったので手は加えてません。
言い回しやらなんやらを追加した程度です。
辞書のネタが段々無くなってきた……専門用語ばっかだとつまらないので極力封印しているつもり。
軍隊用語とかなのは世界ではどういう扱いになってるんだろうか(´A`)
どうでもいい事かも知れませんが、ミッドチルダって言語オリジナルなんだろうか。
だとすると自動的に翻訳されているのか、凄いな魔法って(なぬ
まあシグナム達がいきなり日本語とか喋ってるので気にしたら負けって奴ですね、えぇ。
……ん?こうして見直すとあゆって死亡フラグ?(ぇー

 

■SS辞書■

―レイジングハート(Raising heart)―
高町なのはが扱うインテリジェントデバイス。
ユーノ・スクライアから譲り受けた意志を持った高性能デバイスである。

―ディバインバスター(Divine buster)―
砲撃魔法直射型の一種、魔力を目標に向けて放出する単純かつ高威力の砲撃魔法。
発射速度は遅いが威力は高い、なのはの膨大な魔力があるからこその魔法である。
使用者:高町なのは

―スターライトブレイカー(Starlight breaker)―
砲撃魔法集束型の一種、ディバインバスターの発射形態バリエーション。
発射速度はディバインバスターより遅いが威力は段違い。
術者の使用した魔力、または周囲に散らばった他の魔導師魔力までも集積し放つ大威力砲撃。
使用者:高町なのは