新暦65年、ミッドチルダ南部に位置する時空管理局航空武装隊第77番隊舎。
その隊舎にある第2資料室に一人の青年がボーっとした顔をしながら一枚の写真を眺めていた。
写真に写っているのは二人の少女、しかも小学生ぐらいの幼い少女達だ。
青年はその写真を黙々と眺めながら軽くため息をついていた。
はっきり言って異常な光景だが、幸運な事に第2資料室にはこの青年以外の人間は居ないようだ。

「第97管理外世界……地球か」

それは昔、青年が居た世界。
今でも雪が降り続けているであろう街。
学校、公園、商店街、ものみの丘、そして……水瀬の家。
もう一つの故郷、もう一つの拠り所。
そして、大事な人々が今も住まう場所。

「こりゃ一度帰った方がいいか……休暇でも取って…」

写真に写っていた少女達から視線を外して青年は天井を見上げる。
薄汚れた天井は、ただ静かに時が過ぎるのを待っているだけだった。

 

魔法少女リリカノンなのは
プロローグ
「魔導師の午後」

 

「あれ? 祐一くん……どっか行くの?」

隊舎の入り口近くに立っていた少女は不思議そうに青年、相沢祐一に話しかけた。
その少女は武装隊の制服に身を包みながらも、何処か違和感がある容姿をしていた。
……優しく包んだ言い方ならば、一日署長のような愛らしさがある。
簡単に言ってしまえば幼い容姿に制服が合っていない。
まるで中学生か小学生の劇のお芝居のようだった。
頭にはカチューシャをしておりそれが一層容姿に幼さを醸し出している。
そんな少女を見て祐一は面倒臭そうに頭をかいた。

「んー、まあな」
「ふーん、何処行くの?」
「休暇」
「クラナガン? だったらお土産にたい焼きでも…」
「んにゃ、地球」

祐一がそう言った瞬間、少女は驚いたのかズッコケる。
しかしそれも一瞬の事ですぐに態勢を持ち直し祐一に高速で詰め寄った。
……流石に武装隊所属なだけあって動きは素早い。
祐一は軽く関心ながらも、若干疲れたように溜息をついた。

「うぐぅ! 祐一くん酷いよぉ!!」
「なんだよ、あゆ…俺が休暇に何処行こうが勝手だろ」
「ミッドチルダ内ならそうだけど地球にって……うぐぅ、ボクも一緒に帰りたいよ!」
「お前仕事溜まってんだろ、それに有給余裕あったか?」
「……この前まとめて取っちゃった」
「南無、つーわけで悪いな…ちゃんと秋子さん達にはよろしく言っておく」

まだブツブツと文句を言っている月宮あゆを無視して祐一は手を振りながら隊舎から出て行った。
どうにかやり過ごしたか……っと祐一は内心でホッとする。
流石に多忙な武装隊から急に二人も休暇を申し出たのでは他の局員に恨まれてしまう。
ただでさえ最近は祐一が取り巻く環境に文句をいう同僚が多いというのに。
しかし、隊舎から出て数歩歩いた所で今度は違う少女に捕まってしまった。
武装隊の隊舎近くに小さな森が存在しているが、この森は人工的なもので野生の獣などはほとんど生息していない。
鳥や虫などはいるようだが、一般的な森に比べたら断然数が少なく、一種の鑑賞用の森林だった。
そしてその少女はそんな森の中から走って来て歩いて行こうとした祐一の腕を掴んだ。

「ゆーいちー!!」
「……あー、今度はお前か」
「あれ、何処か行くの? 肉まんお土産でよろしくね!!」
「お前もか、数週間後になるけどいいか?」
「あぅ? 何でそんなに時間がかかるの?」
「いや、俺これから休暇で地球に帰るんだよ」
「…………あぅ?」
「何か秋子さんに伝える事でもあるか、真琴」

嫌な予感がしていたが祐一は苦笑い気味の笑顔で少女、沢渡真琴に話しかける。
先ほどのあゆの興奮具合を見るに、真琴も同じように……。
っと、そこまで考えた瞬間、祐一の腹部に激痛が奔る。
どうやら真琴の右ストレートが綺麗に決まったようだ。

「ぐはっ……何をする」
「何をするじゃないわよっ! 何で真琴にその事を黙ってたの!」
「いや、俺の休暇だし……」
「使い魔の真琴に黙って出かけるってどういう事よっ!!」

そう言って真琴は暴れだす。
そんな真琴の姿を見て、流石に祐一は言葉を詰まらせた。
確かに使い魔に一言も断りなく出かける事なんて普通しない。
祐一が使役する使い魔である真琴。
元来使い魔とは主人が契約によって生み出し目的を与えて使役するものである。
しかし祐一は真琴を生み出したとき、何の制約も与えなかった。
だからこそ、真琴は縛られていない使い魔であり、今のような行動を日常的に行う。
……例えば主人を殴る蹴る罵倒するなんて事だ。
なので真琴はある意味自由な使い魔であり、祐一が連れて歩く必要性はない。
その証拠に普段祐一は任務以外で真琴の行動に制限をつける事はしていなかった。
だが、まあ使い魔としてより一人の少女に対する態度がなっていなかった事は事実である。

「悪かった、謝る」
「なら真琴を連れてって!」
「んー、まあいいか……真琴だし」

祐一は軽く頷く。
相沢祐一個人の固有戦力として認めれらている真琴は基本的に管理局の中でも祐一の所有物だ。
なので祐一が休暇を取るという事は真琴も同時に待機状態、または使用不能状態と見なされる。
ここら辺はデバイスと一緒で祐一の許可なしに扱う事は普通出来ない。
それに……まあ必要ないだろうとはいえ祐一は一応の保険をかける意味も込めて真琴の同行を認めた。

「わかってると思うけど地球で魔法なんて使うなよ?」
「あぅ〜、自信無いけど頑張る」
「……そこは頼むから自信を持て」

……しかし幸先がとても不安だった。

 

 

 


「そういえば祐一って魔導師ランクいくつだっけ?」
「……お前な、仮にも主人のランクぐらい覚えておけよ」
「あぅ〜、細かいこと気にしてんじゃないわよ」
「まあいいけどな、"今"のでいいのか?」
「うん、どのぐらい?」
「空戦B+」
「あれ? じゃあ真琴の方が強いの?」
「そうじゃないか? お前って確か空戦A+だろ?」

武装隊隊舎を出て数十分自動車を走らせ祐一達はミッドチルダ首都クラナガンに来ていた。
地球に行く前にお土産の一つや二つここで買っていこうというのだ。
幸い、水瀬家の家督である水瀬秋子は魔法の事もミッドチルダの事も認識済みなので問題ない。
まあ包装紙やら商品の機密性やらを注意して買わなくてはいけないのでそう多くは買えない。
しかもお土産のゴミはミッドチルダに持ち帰るかその場で処分しないといけないので面倒な事この上ない。
そんなこんなで祐一と真琴はお土産屋などを回りながら普段はあまりしないような世間話に花を咲かしていた。

「それじゃああゆは?」
「あゆは空戦AA、我が武装隊きってのエースだからな」
「あぅ……あのいつもボーッとしているあゆに負けてるなんて」
「おいおい、あゆを馬鹿にすんなよ? あいつはあの戦技教導隊に仮想敵役や技能訓練に臨時で呼ばれるほどの実力者だぞ?」
「そ、そんなに強かったんだ……」
「まあ性格があんまり戦闘向きじゃないんだが、それを補う技術が凄いからな」

祐一はそう言いながら商品の棚から瓶を二つほど取ると左手に持っていた買い物かごに入れる。
それを見て真琴は不思議そうに顔を傾げた。
ちなみに現在祐一達は首都のショッピングモールに来ており平日の午後というだけあってそれなりの賑わいを見せていた。
祐一は武装隊の制服を着ており真琴は私服、真琴の場合祐一の使い魔なので制服はほとんど必要ないのだ。
公式の場などに出る時以外は私服の着用が許可されている。
祐一の方は一応休暇扱いだがミッドチルダに居る限りは緊急招集が無いとも限らないので制服を着用していた。

「あぅ? それってジャム?」
「ん、あぁ……秋子さんのお土産にな」
「でも秋子さんってジャム作れるんじゃないの?」
「はっはっはー、管理局を舐めるなよ? これは第6管理世界で取れた特別な果物のジャムなのだ」
「お〜、レア?」
「レアもレア、地球じゃ手に入らない果物だからな」

そんな話をしていた最中、祐一はとある視線に気づいた。
敵意もなく殺気もない、ただの視線だ。
武装隊に所属している祐一だからこそ気づく程度の視線であり真琴はまったく気づいていない。
見られる事はそんなに珍しい事はないが……ここまで長い時間視線を感じるのはおかしい。
どうやら通りすがりではなく、こちらに用があるお客のようだ。
しかし祐一はそれを確かめる事はせず買い物を続ける。
何となく面倒くさそうな感じがしたので無視する事にしたのだ。
だが……すぐに世の中そんなに甘くない事を知る。

「相沢准空尉、お久しぶりです」
「……その声、天野か」
「あ〜! 美汐だ〜!!」

声をかけて来たのは管理局の黒い制服に身を包んだ少女、天野美汐だった。
首から十字架型のデバイスを下げており、すぐ魔導師である事がわかる。
真琴は大きな声で美汐の事を呼びながら祐一を追い越し駆け寄った。
祐一は真琴とは反対に怠慢な動きで、美汐へと振り返る。
駆けてきた真琴を美汐は苦笑交じりに迎えようとして……しかし一気に跳躍して突っ込んでくる姿を見て焦っていた。

「美汐〜〜〜!!」
「……っと、真琴…危ないから走りながら突っ込んでくるのはやめなさい」
「美汐美汐美汐〜〜!」
「…………はぁ、聞いてませんね?」

溜息をつきながらも諦めるように苦笑する。
そんな何処か姉妹か親子を思い出させるような姿を見て、祐一はしかし違う事を思っていた。
真琴が駆け寄る速度、跳躍した距離、そしてその衝撃。
全てを一瞬にして判断し、真琴は勿論自分に対しての衝撃を最小限に抑えた抱きかかえ方をしていた。

「流石だな、天野執務官」
「別に大した事もありません、相沢さんだってやろうと思えば出来るでしょう」
「出来るけどやらん、俺なら真琴が飛びついてきたら避ける」
「……そんな自信満々に言われても困りますが」

美汐は何処か責めるように上目づかいで表情を変えずに睨む。
しかし迫力はない、どうやら相手も祐一の性格については諦め気味のようだ。

「それで? 何で天野がここにいるんだ?」
「首都でまだ少しやることがありまして……それが終わったらまた本局行きです」
「ん、頑張ってるな」
「それほどでもありません、一時の相沢さん達に比べたら……」
「いやあれはただの小間使いだろ、本局に居た頃の武装隊は忙しかったからなぁ」

祐一は腕を組み当時を思い出しているのか苦々しい顔をしながら俯く。
そんな祐一を、美汐は柔らかく笑いながら胸に納まっている真琴の髪を撫でつつ眺めていた。
祐一が思い出しているのは新暦63年から新暦64年の間で起こった局員連続襲撃事件。
当時空曹だった祐一が派遣された武装局員として携わった任務だ。
祐一が行ったのは事件が起きた管理世界に配属されている局員の護衛。
更には派遣された捜査官や自然保護隊の地域案内などである。
まるで馬車馬のように働かされた祐一は、その一件後仕事をする事を嫌がり始めた。
しかしその功績のおかげで一年の間に空曹から准空尉まで階級が上がったのだが。

「だから俺はこれからの人生を余生として生きていく事にしてるんだ」
「長い余生ですね」
「まあな、"海"はもうこりごりだ」

祐一が大げさに降参のジェスチャーをすると、美汐は軽く笑った。
あらゆる世界を飛び回り"海"に接している美汐を前にそんな事を言う祐一が可笑しいのだろう。
っと、抱きつき飽きたのか真琴は美汐から顔を放し……だが身体自体は美汐の傍からは離れずに顔だけを上げる。

「ねぇ、そういえば美汐の魔導師ランクっていくつなの?」
「魔導師ランク……ですか?」
「さっきからどうしたんだ? 魔導師ランクなんか聞きまわって」
「ん〜、何となく」
「私は総合AAランクですよ」
「あぅ、あゆと同じ?」
「あゆは空戦だけどな」

軽く欠伸をしながら祐一はそう訂正する。
美汐は何気なくそんな祐一を眺めていて、とある事に気がついた。

「そういえば相沢さん、デバイスは?」
「ん? あー、あいつなら置いてきた」
「……それでいいんですか」
「必要ないだろ、俺はこれから地球に行くんだぜ?」
「休暇ですか?」
「まあな、ちょっと気になる事もあるし」
「なら尚更持って行った方が……」
「めんどい、あいつ性格悪いし真琴さえいれば―――いってぇ!?」

瞬間、祐一の後頭部に衝撃が奔った。
一瞬真琴の仕業かと思ったが、真琴は現在美汐に抱きかかえられている。
流石に今の状態で祐一を攻撃する手段はない。
ならば何が……っと振り返った祐一の眼前に、浮遊する物体があった。
それは金色の指輪、独特の模様が彫りこまれたものであり中心には蒼い宝石が埋め込まれている。
思案するまでもなく、祐一にはそれが何なのか即座に理解した。

「……なんでここに居る」
『What a coincidence, My master(何と言う偶然でしょう、我が主)』
「なんだお前は、あれか……これが偶然の出会いとでもいうつもりか」
『That's right, My master(その通りです、我が主)』
「黙れこの不良デバイス、インテリジェントデバイスなら主人のサポートをしろ、何故攻撃をするか」
『Female psychology, My master(乙女心です、我が主)』

突然現れた指輪、祐一のインテリジェントデバイスである"彼女"はそう言いながら祐一の周囲を飛び回った。
そんな突然のデバイス登場に、しかし真琴と美汐は動じることなく対応した。
どうやらこのデバイスの突然な登場は日常茶飯事らしい。
普通のデバイスはこのような行動はしない。
いや、しないというよりは出来ない。
デバイスは魔導師にとって必要なものではあるが、魔導師はデバイスにとって必要不可欠なものである。
この差は大きく、魔導師に使用するために作られたデバイスは基本的に使用者に服従する。
なのでこのような暴挙に出るデバイスも珍しい。
独自の思考を持ったインテリジェントデバイスだからこその行動とも言える。

「わ、リューナ久しぶり!」
『After a long time, How are you?(久しぶり、元気でしたか?)』
「うん、真琴は元気!」
「お久しぶりです、リューナ」
『I am very happy to find you so well, Misio(元気そうで安心しました、美汐)』

金色の指輪、リューナと呼ばれたデバイスは受け答えしながら祐一の手のひらに降りる。
祐一は黙ってその指輪を指にはめると観念したのか呆れたように溜息をつく。

「……厳重に封印処理したはずだがな?」
『Show fight, My master(根性を見せました、我が主)』
「見せるな」
「……リューナは自力で封印解除も出来るのですか?」
「あー、こいつの言う事をあんまり信用するな天野」
『Watch your language, My master(失礼な言い方ですね、我が主)』
「うるさい、黙ってろ不良デバイス」
『I am normal, My master(私は正常です、我が主)』
「……嘘をつくな」

その後、祐一達はデバイスの突然な登場もありお土産を買いショッピングモールを出るまでに数時間を要してしまった。
店を出る時には既に空は夕暮れ時でそれほど長時間店内に居たことになる。
真琴は未だ美汐の傍を離れず、まるでサルの人形のように腕にしがみ付いていた。
久しぶりに会えた事が嬉しかったらしく、離れる気配がない。
ちなみにそんな真琴の様子を見た祐一が休暇中美汐に預けるのもいいかと発言した際に手加減なしで蹴られた事は割愛する。

「というか不良デバイス」
『What happened?(何かありました?)』
「真琴の攻撃を自動で防御するぐらいの性能は見せて欲しかったな」
『Please(お願いします)』
「……何?」
『Please(お願いします)』
「何だそれは、俺がお前に助けてくださいと言えと?」
『Yes, master(そうです、主)』
「解体してやろうかてめぇ……」

 

 

 


その後美汐を連れて早めの夕食を取った三人は、夕食後一旦解散した。
真琴は美汐についていき、美汐は地上本部に顔を出しに行くらしい。
祐一は祐一で先ほど買った荷物の整理や本格的な旅行支度をしに隊舎に戻る事にした。
夜のミッドチルダを祐一が運転する自動車が進む。

『Romantic feeling, My master(ロマンチックですね、我が主)』
「うるせぇその口塞ぐぞ」
『……He stole a kiss from her(彼は彼女の唇を奪った)』
「いや違うそういう意味じゃない、嘘の状況説明するな!」

祐一は疲れたようにハンドルをきる。
恐らくこのデバイスが自律行動出来ないものならば今にも自動車の窓から投げ捨てただろう。
だが、このインテリジェントデバイスは一味違う。
捨てられたらその数百倍の仕返しをしてくるだろう。
それを祐一は知っている為に、下手な行動が出来ない。

「まあ封印解除してきたのは仕方ないとして……地球では大人しくしてろよ?」
『confinement?(監禁で?)』
「あー、それもいいかもな」

そう言いながら祐一はリューナの言葉を流す。
封印処理自体が監禁以上の行いなのだがそれを楽々クリアしてきたデバイスに最早出来る事はない。
後は虚数空間に放り込むか永久凍結でもしない限り蘇ってきそうだ。

『Loving smack(愛の鞭ですね)』
「変な単語覚えんな、頼むから少しはデバイスらしくしてくれ」
『Impossible(不可能です)』
「はいはい、わかったから永遠に黙ってくれ」

自動車はそんな二人を乗せながら対向車もいない道路を飛ばす。
隊舎までの道のりはいつも車通りが少ないのでこの時間自然とアクセルに足が踏み込む。
航空武装隊なだけあってこの程度のスピード、もっといえば自動車程度のスピードならむしろ遅く感じるぐらいだ。
祐一は状況によっては高速戦闘などを行う武装局員、地面を進むだけの乗り物程度では恐れはない。
だからだろうか、スピードを段々と上げて……突然横から飛び出してきた人影に気づいた時にはブレーキが間に合いそうになかったのは。

「―――うおっ!?」
『"Round shield"(ラウンドシールド)』

瞬間、デバイスであるリューナは"自動車のタイヤ"に向けて防御バリアを発生させた。
それによって自動車は人影の数メートル前そのままのスピードで、跳ね飛ばされたように"宙"に浮かんだ。
まるで砲撃魔法にでも撥ねられたような衝撃が車内を襲う。
シートベルトをしているとはいえ祐一の身体は席に叩きつけられようとしていた。
しかし次の瞬間には祐一の衣服は戦闘用のバリアジャケットに換装され防護の役割を果たす。
刹那、祐一は焦ったように指輪に向かい怒声を上げる。

「ちっ……出るぞ!」
『Destroy?(破壊します?)』
「仕方ない、やるぞっ!!」
「All right, My master(了解です、我が主)」

リューナがそう呟くように宣言した瞬間、車内は空中で眩い銀色の魔力光に満たされる。
そして刹那、祐一の右手には指輪から細長い杖のような形に変わったデバイスが顕現する。

「―――フュンフランツェ!!」
『"Funf lanze"(フュンフランツェ)』

リューナの銀色に輝く杖先から5本の細長い銀の光が飛び出す。
その光は自動車の屋根を吹き飛ばし、空への脱出口を開いた。
祐一はリューナを振るいシートベルトを弾き飛ばすとそのまま冷たい夜空へと身を投げ出した。
そして、空に浮かんだ祐一は急降下して車より速く地面へと降り立つ。

「―――破片が飛び散らないように破壊する、やるぞ…"Brionac"!!」
『I can be shot(いつでもどうぞ)』

ミッド式魔方陣が地面に広がりリューナの形状が変化する。
無骨な直線型のリューナは杖先を変形させ金属片が飛び出す。
これがリューナのベシースングモード、俗に言う"砲撃体制"に変化したのだ。

「シュテルン……ベシースングッッ!!」
『"Stern beschiesung"(シュテルンベシースング)』

光が溢れ出し辺り一帯を眩いまでに照らし尽くす。
祐一の放った直射型の砲撃魔法は自動車を蹴散らし天空を白銀に染め上げた。
しかしそれも一瞬の事ですぐに辺りは漆黒の闇に包まれて、打ち上げられた自動車の残骸がはるか彼方に落ちる音がする。
数分後、魔法を撃った姿勢で固まっていた祐一はようやく口を開く。

「………やりすぎたか?」
『No problem(大丈夫です)』
「いや…やべぇだろ、ミッドで許可なしに魔法使用なんて……」
『It ended without mishap(何の事故もなく済みました)』
「まあそうだけど、うわぁ……これ休暇取り消しぐらいにはなるぞ」
『Falsify records(記録を改竄してください)』
「……それじゃあ犯罪者だろうが」

祐一は深くため息をついた。
今回の事故はこちら側の過失だ、弁解する余地もない。
幾ら何時も車通りが少ない場所だからといってスピードを出し過ぎたのがいけなかった。
……それにしても車道にいきなり飛び出してきた人影はどうなったのだろうか。
祐一は不安になり辺りを見渡す。
こちら側の過失とは言え祐一は自分の自動車を破壊してまで人影を庇った。
デバイスが機転を利かせたお陰で負傷は無い筈だ。
ならば一応顔の確認ぐらいは……っと暗い夜道を確認する。
しかし、そこには誰もない。

「……あれ? もう既に逃げたのか?」
『There is no reaction(反応がありません)』
「嘘だろ……人影なんて勘違いだったのか?」
『It doesn't understand(わかりません)』

祐一はまるで狐に化かされたようにその場に立ち尽くした。

 

 

 


「……夜間試験動作中にトラブル発生、これより帰還します」
『どうやら邪魔が入ったようだ、一体どのようなお客さんだい?』
「記録照合…………時空管理局航空武装隊第1011部隊分隊長相沢祐一准空士」
『成程、恐らく首都クラナガンからの帰途の際偶然にも遭遇してしまったようだ』
「消しますか?」
『いや、下手に関わらない方がいい……君の記録を見た限りでは中々のやり手じゃないか』
「しかし記録によるとB+ランク程度、倒せなくもない相手です」
『まあそのままならそうだろう、だけど実は彼には面白い項目があるんだ……』

 

 

 


あとがき
魔法少女リリカルなのは映画化おめでとう(遅
執筆理由は何となく。
他の話がスランプ気味なので気分転換に書いたら結構ノッてしまった。
あー、英語とかわかりません(なぬ
誤訳してるかもしれませんがその時は万年英語赤点だった作者を馬鹿にしてやってくださいな。
ちなみに書くまでに設定集まで作ってしまった無駄な努力……息抜きなだけなのにorz
無理がない程度にオリジナル、そして作者はあゆが嫌いなわけではありませn(ry
ちなみに、正直アニメだけを見てた人にはわかりづらい設定かもしれない。


■SS辞書■

―ミッドチルダ―
魔法文化が発達している世界でミッドチルダ式魔法の発祥地。
時空管理局地上本部や聖王教会、ザンクト・ヒルデ魔法学院などがある。
武装隊やら戦技教導隊の隊舎なども各地に存在している。

―第97管理外世界―
惑星「地球」がある世界。

―武装隊―
武装局員で構成された魔導師部隊。
標準的な局員の魔導師ランクは隊長でA〜Bランク、隊員でB〜Dランク程度である。

―使い魔―
魔導師が使役する魔法生命体、生物が死亡する直前または直後に魂魄を憑依させる事で生まれる。
肉体としての形は受け継がれるが生前とはまったく別個の存在でしかない。

―魔導師ランク―
魔力の量、保有資質を総合して決定される魔法使いの順位。
ちなみにこのSSのランク設定はStrikerS本編のもの。
無印&A'sでは追加されていなかった細かい設定を重視してみました。