「ごほっ! ごほっ! ……あ〜、めっちゃ辛い」
昨日の夜からなんか寒気がするなぁっと思ったら案の定かよ……。
うお……、目の前がすげぇ霞む……こらやばいな。
しかし動くのもダルいからベットの上から移動出来ない……。
仕方ない、秋子さんに心の中でSOSの信号を送ってみよう。
(我、風邪引イタ、至急応援求ム)
…………。
………………。
……………………。
全然こなかった、いや、これで来てもらっても正直困るが。
「秋子さ〜ん、ヘルプー」
結局ガラガラの声を出来る限り張り上げて俺は秋子さんを呼んだ。
風邪をひいた男
「38度……風邪ですかね」
秋子さんはそういいながら俺から渡された体温計を見ている。
一方の俺はというとすでにダウン気味……体の節々がダルくて動きたくない。
「今日はお休みしてください、学校には電話しておきますから」
そういって秋子さんは頬に手を当てながら微笑む。
……そういえば俺って引っ越して来てから始めての病欠かもしれないな。
ある意味1年以上も病気にならなかった俺って結構凄い?
いや、別にそんなことで誇ってもしかたないけど……。
「すみません……、昨日の夜油断しました……」
昨日の夜に寒気がした時点で早急に対策を取っておけばこんな事にはならなかったかもしれないのに。
「そんな事ありませんよ、風邪というものはひくときはひいてしまうものですよ、あまり気にしないでください」
うぅ……、秋子さんは優しいなぁ……。
名雪の母親でなかったら是非ともアタックしたい人ナンバー1だ。
しかし悲しいことに俺たちの前には法律という厚い壁が立ちはだかっているのも事実なのだ。
……もっとも秋子さんならもしかして「あの法律をなんとかしてください」と言った瞬間本当に法律が変わってしまいそうで怖い。
色々凄いコネもってそうだしなぁ、この人。
「あと……すみませんが私はこれから仕事なんです……」
秋子さんはそう言いながら辛そうに俺を見ている。
「はは、全然大丈夫ですよ、この位の熱ならなんとかなります」
水瀬家の家計を一手に引き受けている秋子さんの邪魔はしちゃいけない。
ただでさえ家には俺とかだおーとかうぐぅとかあぅーがいるのにこれ以上迷惑はかけられない。
「でも……病気の時は誰かが傍にいた方が安心出来るものですよ?」
いや、そんな大げさな。
別にここは戦場じゃあないんだから……、それにそこまで俺は精神弱くないですよ。
それにいざとなったら万年暇人のうぐぅとあぅーもいるし。
「俺は本当に大丈夫です、それより秋子さん、すみませんが名雪のやつを起こしてやってくれませんか?」
俺はそういいチラリと目覚まし時計を見る。
もうすでに走らなくてはいけないぐらいに危険な時間だ。
……まあいつもの事だが。
その後俺の部屋を出て行くまで心配そうに俺を見ていた秋子さんはようやく名雪を起こしにいった。
……微妙に寂しさが残る、言ったそばから我侭な奴だな俺。
『名雪……起きなさい、朝ですよ』
『うにゅ〜、まだ眠いよ〜』
廊下から名雪と秋子さんのやり取りが聞こえる。
結構筒抜けなんだな、名雪の部屋って……。
『ほら……名雪、今日は祐一さんがお休みなんだから早く起きなさい』
『うにゅ〜? 祐一がお休みするなら私もお休み……』
こら、人をダシにしてお前も休もうとするな。
『困ったわねぇ……、最近は名雪を起こすのを祐一さんに任せっきりだったから……』
そういえばこの頃毎日の如く名雪を起こしてたのは俺だったな。
そうなると秋子さんじゃちょっと辛いかな?
……やっぱり俺が起こした方がいいかな?ちょっとくらいなら無理しても……。
『加減できなかったらどうしましょう?』
うん、そんな必要まったくないね!
……そしてさらば名雪、君の事は忘れないよ?
『だお〜〜〜〜〜〜!?』
しかし秋子さん、実の娘に情け容赦ないですね。
暫くの沈黙の後一応生きてたと思われる名雪は「お腹がとっても痛いよ〜」と言いながらも学校へ行ったらしい。
そしてその後すぐに秋子さんも仕事へと向かった。
……俺はする事もなくただ床に伏す。
さっきまで寝てたので眠気などは一切なく退屈な時間だけが過ぎていった。
「……暇だ」
2時間後、沈黙に耐えられなくなった俺は無駄に水を飲みに部屋を出る。
……少し足元がふらつくが大丈夫だろう。
一階に降り台所に入り蛇口を捻る、そして勢いよく流れ出る水をコップに入れそのまま口に含んだ。
「微妙だ……、美味くもないし不味くもない」
当たり前か、水だし。
さて…と、喉の渇きも癒えたし…大人しく部屋に戻って寝てるか。
俺は部屋に戻ろうと台所を出て階段を上ろうとした時、階段の上に誰かがいるのに気がついた。
「あ、祐一君おはよう!」
それはタイヤキ柄のパジャマを着たうぐぅ娘だった。
いや待て、いくら見た目子供で中身子供なお前でもその柄のパジャマはないだろう。
……すげぇ似合ってるけど、すげぇ似合ってますけど!
まあ多分名雪があげたパジャマなんだろうな、それか秋子さん。
「がほっ、がほっ!」
「うぐぅ? がほ……? えっと、ガッホ?」
何だそのゴッホの紛い物みたいな名前は。
「あ〜、あゆあゆ」
「……あゆあゆじゃないもん」
俺は勿論あゆの言葉を無視して続ける。
いや……なんつーか、お約束じゃん?
「悪いが俺は今日風邪をひいて学校を休んでいる、だから―――」
「えっ!? 大丈夫なの祐一君! あ……どうしよう、お薬お薬! うぐぅでもどこにあるのかわからないよ〜、秋子さーん!」
「……頼むから今日一日は静かに、って…あぁ無理だよねそうだよね」
あゆはそう叫びながら階段を降り台所へと走っていく。
……今日は秋子さん仕事だってのに、気が動転して忘れてやがる。
あゆあゆだもんね、っと無理矢理納得させながら部屋に戻った。
……コンコン。
それから暫くして、ベットで寝ていた俺に遠慮がちなノックの音が聞こえてきた。
ちなみに狐じゃないぞ、真琴じゃないぞ。
狐は実際にはコンコンとは鳴かないし、真琴はそんなに行儀よくない。
ならば、消去法で……この家にいるのは一人だけだ。
「どうぞ〜」
「うぐぅ……お邪魔します」
何故か遠慮するようにあゆが入ってきた。
どうやらお見舞いに来てくれたようだ、少し感動。
暇してたのは確かだし、朝の秋子さんの言葉じゃないが……誰かが傍に居ると思うと少し気が楽になる。
「祐一君……具合どう?」
「微妙……だなぁ、朝よりは楽になった気がする」
体温計では体温はそれほど下がっていなかったが、今はそれほど辛くない。
精神的なものだろうが、少しは直った気分になる。
「よかった……、あっ! それでね祐一君、秋子さんが下に祐一君用のご飯を用意してくれてたんだけど……」
「お、本当か? そりゃ嬉しいな、少し腹が減ってたんだ」
流石は秋子さん、完璧主婦の異名は伊達じゃない。
秋子さんはどんな料理を作っていてくれたのだろうか。
少し期待、いや……かなり期待だな。
「じゃあ悪いが暖めて持ってきてくれないか?」
「……うぐぅ」
「あー、もしかして電子レンジの使い方とかわからないか?」
電化製品に弱そうだもんなぁ、こいつ。
となると、フライパンか鍋に火を通すのか。
大丈夫か、あゆで?
まあ最近は秋子さんに習って料理の練習もしているようだし……何とかなるか?
「電子レンジが苦手なら軽く火で暖める程度でいいぞ、弱火または中火でじっくりやれば焦げないから」
「……うぐぅ」
「………………ん?」
さっきからうぐぅしか言わないあゆに何やら嫌な予感がする。
まさか……なぁ?
いくらあゆあゆでもそんなミスはしないだろ。
「どうした? あゆ?」
「……実は料理温めようとして…真っ黒にしちゃった」
「―――この大馬鹿タイヤキ娘ー!!!」
「うぐぅ!? ご、ごめんなさい」
なんてベタな失敗しやがるんだこいつは。
料理を温めるぐらいでどうして真っ黒になるんだ。
だからさっき入ってくるとき必要以上に遠慮してたのか。
「祐一君が風邪をひいたって聞いて、秋子さんも居なくて…」
「……あー」
「それで、焦っちゃって……うっかり……」
「強火にしちゃったのか?」
「…………水と油を間違えちゃった」
「どうしてそれを間違えられるんだー!!!」
なんて失敗しやがる、この娘は。
うっかりにも程があるわ、まさかワザとじゃないだろうな。
……嘘をつけるほど器用じゃないか、あゆは。
「うぐぅ……ごめんなさい」
「まぁ、ワザとじゃないから……良しとしよう」
「お詫びに…………今からボクがお粥を作ってあげるよ!」
「え?」
あぁ、そういえば前に秋子さんが風邪で倒れた時からのあゆの得意料理なんだっけ。
味付けをほとんどしないでいいからそれほど失敗もしない。
それに名雪にレシピを聞いているから間違えもしないだろう。
それにあゆのお粥を一回食べてみたかった所でもある。
「よし、あゆあゆ上等兵……相沢司令官にお粥を持ってくるように」
「うんっ、任せて! ちょっと待っててね〜」
そう言いながらあゆは元気に部屋から出て行った。
相変わらず喜怒哀楽が激しいやつだ。
まあ普通お粥なら20分〜30分程度だろうが、あゆの場合は多めに見て1時間は覚悟しよう。
それまで寝て過ごすか……暇だしな。
「ゆーいちー!!!」
そして数分後、寝ようと頑張っていた俺の部屋に騒々しく狐が入ってきた。
「おぁ? あぁ……真琴か」
今日は風邪ひいてるから静かにな…っと続けようとして息がつまった。
何と真琴はいきなり走り出してベットで寝ている俺にダイヴを仕掛けてきたのだ。
いくら体重の軽い真琴でも勢いをつけて腹に乗っかられると辛い。
「真琴……何の恨みが……」
いや恨みはあるだろうがここまでするのか。
流石に洒落にならんっと俺はベットの上の真琴を退かそうと体を起こした。
……そして気づく、真琴が不安そうにこちらを見上げていた。
「………ん? どうした?」
少し声のトーンを優しくして聞いてみる。
まぁ今だ頭には怒りマークが浮かんでいるが表情だけは笑顔だ。
「祐一……大丈夫?」
真琴は、少し脅えながらそんな事を言ってきた。
お前のせいで今大丈夫じゃなくなったよっと言い返したかったが、真琴の心配そうな顔に口が止まる。
どうやら本当に心配しているらしい。
お子様な真琴は喜怒哀楽が正直だ、嬉しいときには笑い悲しいときには泣く。
そして―――不安な時には居ても立ってもいられないのだろう。
「…………あー」
少し気恥ずかしくなって顔を逸らす。
傲岸不遜傍若無人俺様お姫様な真琴の態度に少し驚いた。
そうか、真琴と会ってから病気らしい病気もしなかったからな。
多分―――俺がこのまま消えてしまうなんて思ってたんじゃないだろうか。
真琴が恐れる理由、少し考えればわかることだ。
ようは……自分のように消えてしまうのではないか。
そう、思っているんだ……真琴は。
「大丈夫だ、ちょっと寒気がするが布団の中に入ってれば問題ないし」
そう言って俺は大丈夫だと言わんばかりにポーズを取る。
ボディービルダーも真っ青な筋肉ポーズだ。
……いや、結構体が怠くて辛い恰好だな…これ。
「あぅ? 祐一……寒いの?」
「いやこの気温で寒くないとか抜かす奴はあれだ、少し異常だ」
風邪の為に暖房の温度も下げている、その上外は何時も通り雪が降っている。
流石に少し肌寒い、まあ我慢できないほどじゃないから別にいいが。
「真琴は、寒くないよ?」
「まあお前はあれだ、丈夫なんだ」
狐だしな、いやこの場合はあんま関係ないか。
っと、そんなくだらない事を考えていると……何故か真琴が消えていた。
「あれ?」
辺りを見渡す、どうやら部屋の外には出ていないようだが見あたらない。
「ゆーいち?」
……声がする方向に顔を向ける。
何故かいつの間にか真琴は布団の中に入っていた。
「何をしてはりますか、真琴さん」
「人間コタツ〜」
「いやそれを言うなら人間湯たんぽといった方が……」
そんなどうでも良いことを訂正しながら布団の中でもぞもぞ動く真琴の行動を呆れながら見る。
そして真琴は俺の隣まで辿り着くと、少し頬を赤くしながら顔を出した。
「あぅ……熱い」
「そりゃ布団内探検すればそうなるだろうよ、あーぁ……髪ボサボサだぞ」
仕方なく乱れた髪を撫でてやる。
丁度頭を撫でているような感覚なのだろう、真琴は嬉しそうに目を閉じる。
「言っただろうが、俺は風邪ひいてるんだから今日は遊べないぞ」
「祐一……寝るの?」
「おう、早く寝て早く治す」
何となく明日も治ってなさそうだけど…。
「じゃあ真琴もここで寝る」
そう言うと真琴は体を擦り寄せるように近づいてくる。
真琴の体温が直に体に触れ、その部分だけ熱を帯びる。
あー、そうか……俺が寒いとか言ったから暖めようとしてくれるのか。
単純な奴だ、そう思いながらも真琴の髪を撫で続ける。
本当は、真琴に風邪が移らないように退かさなくてはいけない。
でも、もう少しだけ……この大人しい真琴と一緒に居たかった。
多分滅多に見られないであろう、この真琴を。
そう……思ってしまった。
だからだろうか、神様は……俺にこんな試練を与えてくれる。
「祐一君、お粥出来たよ〜」
そんな間の延びた名雪のような声のトーンで部屋のドアをあゆが開ける。
……いや、何だ。
一言だけ言わせてくれ、あゆ……少し空気を読んで欲しかった。
「うぐぅ……」
「…………いや拗ねられてもなぁ」
何故かご立腹らしいあゆは頬を膨らませて俯いている。
うぅむ、しかも真琴は既に寝入ってるらしく小さな寝息が聞こえる。
……もしかしてただ眠かっただけなのだろうか。
そういえばパジャマのままだったな。
い、いや、別に期待なんかしてないんだからねっ!
「うぐぅ!!」
「うわぁ! ど、どうしたあゆ…」
何時の前にか近くまで詰め寄っていたあゆの大声に驚いた。
「祐一君!」
「な、なんだよ」
「うきわものー!!」
しまった、何故か昼ドラ別時空だ。
だがあゆよ、浮き輪じゃなくてこの場合は浮気ものじゃないのか?
取りあえず火サスならここで刺されている所だろう、そして時間ギリギリにあゆは崖の上で罪を告白するんだ。
いや、そんな事は心底どうでもいい。
何故か顔を真っ赤にさせたあゆが突進してくる。
仕方なく体で受け止めるが……衝撃でベットに倒れ込んだ。
「あぅ!」
丁度真琴の上に重なるように倒れると……苦しそうな真琴の声が漏れた。
真琴サンドイッチ、ここに誕生。
いや、丁度俺がはさまれてるから祐一サンドイッチなのか?
略して祐一サンド、多分学食に置かれたら最後まであんぱんと共に残り続けるメニューだろう。
「何をなさるか、あゆあゆ」
「…………うん、何かごめんね」
あゆはそう言って顔を真っ赤にする。
多分ノリだったのだろう、何時か見た昼ドラか何かが面白かったのだろう。
単に真似しただけだった、そんなノリのようだ。
いや、謝るのはいいけどどいてくれ。
真琴が蛙を潰したような顔をしているから。
「うぐぅ……ごめんね」
あゆは真琴に頭を下げた。
だが真琴は、こんな状況でも眠り続けている。
…………断じて失神では無いと思う、俺の心の平穏の為にも。
「まあもういいから、お粥……作ってきてくれたんだろ?」
「うんっ、これだよ!」
あゆはそう言うと、突っ込む前に床に置いたトレーを持ち上げ俺に見せる。
そこには風邪薬と思われる錠剤と、水、そして暖かそうなお粥がちょこんと乗っていた。
うむ、あゆの料理にしては普通に美味しそうだ。
お粥は白米にお湯をかけているだけじゃない、ちゃんと煮込んでいる。
お米がとろとろしていて、真中には小さい梅干しが乗っかっていた。
刻んだネギが入ってるらしく、緑色が見え隠れしているのもポイントが高い。
まあ切り方などは気にしない方向で、少しぐらい大きくても愛嬌だ。
「凄いじゃないか、美味そうだぞ」
「えへへ、ボク頑張ったよ!」
あゆは嬉しそうに顔を綻ばせながら喜んでいる。
いや、むしろ嬉しいのは俺の方だ。
…………てっきりいつものノリで罰ゲーム紛いの展開になるものだとばかり思っていたからな。
その後、あゆのお粥を食べ切り俺はゆっくりとした時間を過ごしていた。
安静に寝る為に真琴は既に自室に戻してある。
……軽く起こしてみたが起きなかったので怖くなって寝たまま運んでおいた。
目が覚めたら全てを忘れていることを願う。
「しかし……暇だなぁ」
もう何回読み返したかわからないマンガ雑誌を床に置く。
風邪をひいたのも久しぶりながらここまで暇なのも久しぶりだ。
……最近は友好関係も増えて忙しかったからなぁ。
まああゆと真琴が居る時点で騒がしいのでそれほど憂鬱になる気分でもない。
だけどふと考えてしまう事もある。
今、俺がここにこうして存在してるのは……何のためなんだろう。
「センチ、おセンチってか……似合わん」
苦笑する、風邪の時は普段は考えもしないような事ばかり考える。
思考回路が麻痺しているのか、それとも感傷に浸りたい年頃なのか。
自分の事ながら、まったくもってわからない。
わからない、わからない、わからない。
「やべぇ、思考に酔ってきた」
一気に吐き気が襲いかかる。
馬鹿なことを考え過ぎたからか、視界が一瞬ボヤけた。
「祐一、大丈夫?」
ふっ……と、沈んだ思考を覚ますような声が耳に響く。
何時の間にか部屋のドアが開いており、青色の髪が覗いていた。
そうか、もう学校は終わる時間か。
「あれ? 部活はどうしたんだ?」
「今日はお休み……かな」
そう言いながら名雪が入ってくる。
制服を着ている所を見るとどうやら帰って来てすぐにこっちに来たらしい。
思わず苦笑するが、嬉しい事も確かだ。
…………まったく名雪らしい。
「熱はひいた?」
「んー、どうだろうな」
「ちょっとごめんね〜」
名雪はそう言うと冷えた手のひらでおでこに手を乗せた。
予想以上の冷たさに一瞬身を竦めるが、気持ちいい。
「うん、もう微熱程度みたいだね」
名雪はふにゃっと笑みをこぼす。
不覚にも普通に可愛いと思ってしまった、俺らしくもない。
軽く咳をする仕草をして間をあける。
「まあみんなに看護してもらったしな」
真琴には暖めて貰ったし、あゆにはお粥を作って貰った。
それらが風邪に直接効いたのかは微妙な所だが心には届いた。
病は気から、という言葉の通りだと思う。
「嬉しかった?」
「ん……あぁ、まあな」
「そっか……それじゃあ祐一、もう看病いらない?」
名雪は少し恥ずかしそうに手に持っていたタオルを見せる。
……何と言うか、ベタというかお約束というか。
そんな事を天然でする名雪には正直負ける。
だって、ほら……病気の時に名雪の気遣いは心に沁み渡るものがあるじゃないか。
「……ごほごほ、いや…実はまだ辛いな〜っと」
「それじゃあ仕方ないね〜」
棒読みの俺に、頬っぺたが赤い名雪。
もうベタベタだ、世間一般ではバカップルとも言う。
まああれだよな、風邪の時ぐらいは……。
―――少しぐらい、素直になってもバチは当たるまい。
あとがき
風邪をひきました…orz
いやぁ、何だろう……寝てると色々な事を考えるわけですよ。
そして浮かんだネタ、しかし実際書いてみるとありがちだったとさ♪(何
今回は文章に凝ってみたりしてます、ちなみに「思考に酔ってきた」の部分は本気で酔いました。
まるで乗り物酔いの気分、眩暈も少々……やばいんじゃないだろうか。
風邪の時はパソコンをやらないに限ります、えぇ。
誰か優しくしてくださいという妄想を込めました。