この物語は既に閉じた世界の出来事

 

矛盾が有り無駄が在り真実が成る

過去が始まる

未来が終わる

閉じて開けて仕舞ってぶちまける

 

ただの、道化達の児戯

つまらない者達からの鎮魂歌

 

想像は空想に、現実は想像に、空想は現実に

世界が閉じる

世界が開く

世界が綴じる

世界が拓く

世界を始める

世界を終わらせる

世界が息絶え世界が生き返る

 

それでも構わないなら始めよう

過去を復元し、現在を封殺し、未来を封印する

 

 

 

 

一つの、長い物語を

 

 

 

 

ロードナイツ

 

外伝

「―――T―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

天城使斗(あまぎしと)、それは一人の男の名前である。

彼はまたの名を仲介者、"起源者"と呼ばれる部類に入る超越者である。

だが、彼は他の起源者とは違いその力の有無を他者に預けている。

封印しているわけではなく、失っているわけでもない。

ただ彼は、一人の少女に起源を全て"預けている"状態にある。

しかし……それは起源を封じているわけではない。

ただ―――自分自身の意志で、自分で決めた主の命令がない限りその力を使うことは無い。

節制の起源者、それが天城使斗という男の二つ名である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「だーかーらー、俺は絶対行かないからなっ!!」

 

ここではない世界、ここではない場所、ここではない未来、ここではない過去。

そのような隔絶された世界にパンドラと呼ばれる場所が存在する。

時間が止まり世界が終わり空が無く地面が無い。

パンドラには一つの小さな土地があるだけで、他には何物も存在しない箱庭である。

そして―――そのパンドラに唯一ある城、パンドラ城の王室。

其処に青い髪の少年があぐらをかいて赤い絨毯の上に座っていた。

少年の隣には両刃の抜き身の剣が置いてあり、彼の愛剣……名を聖剣"エクスカリバー"という。

間違いなく、世界最高の剣であり剣の切れ味、重量、扱いやすさが全て最高ランクの聖なる剣である。

それほどの剣、既に人間が扱うには過ぎた魔法の剣。

そのような聖剣を、しかし彼はまるで安物の剣のように抜き身で床に放っていた。

 

「大体"アイリス"は勝手すぎねーか? 俺はついさっきまで幻想種レベルの蛇と一戦交えたばかりだぞ?」

 

そう言って彼、天城使斗は王座に座るたった一人の少女に問いかける。

だが、王座に座る少女はただ軽く笑うだけで使斗の質問を封殺した。

そんな少女を見て、彼は深くため息をついた。

文句を言おうにも、彼女は彼の言葉には何があっても屈しないだろう。

それが主従関係というものだ、それが彼らが望んだ関係だった。

 

「では、次の任務は幻想神種……吸血種の原種である"ノスフェラトゥ"の退治をお願いしますね」

「聞けよ答えろよ幻想神種かよっ! しかもノスフェラトゥって完璧なる不老不死者じゃねーか!!」

 

ノスフェラトゥ、吸血鬼の中でも最古の原種。

吸血種という種族を創った最高レベルの魔族であり幻想神種―――つまり起源を持つ魔物ということだ。

使斗は呆れたように冷や汗を流す。

しかもノスフェラトゥは決して死ぬことが無い、存在が消える事が有り得ない。

完璧なる不老不死、老いない死なない最強の吸血鬼。

力は無限と呼ばれるほど底なしであり疲労せず睡眠を必要としていない。

それほどの怪物、いくら使斗が起源者だからといって簡単に戦える相手ではない。

というよりノスフェラトゥが噂通りだとしたら倒せる気がしない、勝てる気がしない。

それこそ―――運命を否定するぐらいの力が無いと太刀打ちできやしないだろう。

だが……そんなことを気にせず王座に座る少女はただただ微笑む。

少女の綺麗な銀髪が揺れる、人形のように整った容姿が笑みを浮かべる。

 

「大丈夫ですよ、使斗なら軽く一捻り出来ます」

「……何を根拠に、第一俺の起源は知っての通り使用条件があることは知ってるだろ」

 

使斗は気まずそうにそう呟く。

銀髪の少女はそんな使斗を見て少し頬を染めた。

 

「使斗……えっちですね」

「ば―――馬鹿野郎っ! 仕方ないだろ、お前がそういう起動条件に設定したんだから!」

「あらあら、不服でしたか?」

「ぐ―――むっ!?」

 

使斗の顔が真っ赤に染まる。

何処と無く目線をそらし、天井を見上げる。

……沈黙がその場を包む。

銀髪の少女、アイリスは使斗の顔を見つめる。

使斗は天井を見上げ続けていた。

暫く沈黙状態が続き、だがその"均衡"も少女の一言で瓦解した。

 

「それでは使斗、契約を……始めましょう」

「うっ……」

 

少女は―――それだけ言うと目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――うらああああああああああああああああああああっ!!!」

 

暗闇を切り裂くように、聖剣は青白く光り輝き迫り来る影の魔物を一閃した。

使斗は休まず次に迫る影の軍団を睨みつける。

最早疲労が溜まりつつある肉体が悲鳴を上げるが、そんなものには構わず迫る影に向かい駆け出す。

影の爪が使斗に向かい無数に襲いかかる。

使斗はその爪に対し聖剣を盾のように掲げ防ぎきる。

爪と剣がぶつかり合い火花が散る、一瞬辺りに光が満ちた。

見える敵、暗闇に現れる影の正体。

―――それは吸血鬼、しかも中級レベルの集団である。

不老不死には届かない、幻想種には届かない。

だが彼らは、強力なる魔物。

その力は人間などと比べものにならないほど強く、使斗は防いだ剣から凄まじい重みを感じた。

 

「が―――ぐっ……重……てぇ!」

 

使斗はそういいながら―――だが数人分の吸血鬼の一撃を人間一人の力で受けきった。

肉体が悲鳴を上げ、今にも均衡が崩れそうになるが……使斗は歯を噛み締める。

 

「う―――らぁぁぁぁ!!!」

 

使斗は力を込め襲いかかってきた吸血鬼達を押し返した。

また世界は闇に包まれ視界には聖剣の青白い光のみが見える。

予想以上に敵の抵抗が激しい。

使斗は次の襲撃に備え剣を構い直す。

アイリスに言われ、使斗はノスフェラトゥの討伐に乗り出した。

ノスフェラトゥが"存在"する場所はアイリスから聞いていたが―――其処は想像以上の異界だった。

普通の人間では立ち入れない空間、絶対封鎖要塞パンドラと同じ位置に当たる隔絶世界。

アイリスはこの世界の事を、"ブラッディウォーク"と呼んだ。

吸血鬼が生まれた場所、吸血鬼が済む世界。

原種……ノスフェラトゥの存在する最初で最後の吸血鬼の楽園。

このような世界が存在することは、一部の人間、魔族しか知らない。

だが―――もし知っていたとしても、普通の手段では隔絶世界に侵入することは出来ない。

だからこその絶対封鎖要塞、削除された筈の世界。

この世界に侵入できる人間、それは……アイリス以外には存在しない。

パンドラを持つアイリス、"人間要塞"の異名を持つ彼女だからこそそれが可能になる。

そして―――そのアイリスと契約したただ一人の人間、天城使斗だけがその恩恵として人間の身で空間に侵入することが出来る。

 

「―――ちっ、序盤でこれだけ圧倒的な戦力差があるのかよ……」

 

元より天城使斗に仲間はいない、アイリスに契約出来た唯一の人間は他と隔絶された人物。

単騎で、吸血鬼が多数棲む世界に放り出された彼には何時も如何なる時も味方などいない。

流石に起源者といえども無敵ではない、だからこれだけの吸血鬼が相手では押されるのも道理だ。

……使斗の額に冷や汗が流れる、しかも絶望的な事に―――今使斗がいる場所はブラッディウォークは序盤。

隔絶世界の入り口、ノスフェラトゥが存在する場所には未だ遠い場所。

しかもこのレベルの吸血鬼がまだゴロゴロと存在するはずだ。

いや―――もっと強い吸血鬼でさえまるで兵隊のようにゾロゾロとノスフェラトゥを守るように布陣されているだろう。

使斗は絶望感に泣きたくなった……が、軽く自傷するように無理矢理笑った。

暗闇で、方向さえ定かではない世界―――絶望が支配する不死者達の世界。

そんな世界に居ながら、使斗は静かに心を落ち着けようとした。

影の爪が迫る、影の牙が迫る、影の腕が迫る。

吸血鬼達は囲むように、一斉に使斗に向かいその力を全力でぶつけようとする。

しかし―――それより速く、使斗は呟いた。

 

「拘束解放―――発動能力『相反』」

 

聖剣が青白い光を一層強く放ち始める。

使斗が持つ剣が―――振るわれた。

それは、見えない剣速で、音さえ切り裂き真一文字に辺りを断絶させた。

蒼き軌跡が使斗を中心に円のように広がっている。

囲っていた影は……一撃の下に切断され、そのまま再生することなく灰へと変わる。

聖剣エクスカリバー、聖なる力を持って吸血鬼などが持つ再生能力を"切断"する力を持つ最高の剣。

流石に、上級レベルの吸血鬼の再生能力を完全に切り裂く事は出来ないが……中級レベルの吸血鬼ならば一撃で葬り去る事が出来る。

しかし―――それを可能にした剣速は決してエクスカリバーの能力ではない。

確かに、刀身の長さに比べ軽量のエクスカリバーは素早い剣速を可能にする。

だが、今し方使斗が振るった剣速は人間の限界を軽く超えたほどの速度であった。

それを可能にした能力、それが使斗の持つ起源の一つ―――"相反"である。

この起源は、簡単に言えば世界の物質を反発させる能力である。

つまり使斗は手に持った聖剣エクスカリバーを核にして世界を、詳しく言えば大気を反発させる為の道具としたのだ。

唯一の核である聖剣は世界自身から反発させられて一瞬の拒絶を受ける。

その拒絶は世界を覆う全ての力と同義であり、襲いかかる力は想像を絶するほどの暴力でもある。

しかし聖剣エクスカリバーは決して折れることが無い聖なる剣。

例え世界全ての力が加わろうとも折れない事が決定されている運命を持つために耐えきってしまう。

そして……その事を知っている使斗は敢えて剣に相反をかけ反発させた。

その結果、折れないが世界の力を直接加わった聖剣は弾き出されるように強い衝撃を受ける。

使斗はその力を利用し、自らの腕を加速器として力を加えることにより軌道を確保。

力を流れに変えさせて剣を自分の思ったとおりの方向に弾き飛ばしたのだ。

だからこそ、使斗の一撃は目に見えず音さえ切り裂き世界を敵に回し放たれた。

あまりの速度に斬られたモノは斬られた部分から一気に浸食を受け体中に振動が加わる。

吸血鬼達は斬られた瞬間にその衝撃が全身を突き抜け一瞬にして灰になったのだ。

まさに"世界最速"の一撃、その一撃―――避けようと思って避けられる速度を遙かに超えていた。

しかし―――いくらそのような剣速が出来たとはいえ、被害は甚大だった。

 

「ぐ…………ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

カランカランという音を立てて、青白く光剣は落ちた。

使斗は聖剣を地面に落としてしまったのだ。

否―――落としたわけではない、落ちることが当たり前なのだ。

何故ならば……使斗の片腕は既に消失しており夥しいほどの血液が肩から噴き出していた。

それも当たり前である、世界の力を僅かであるが自らの腕を加速器として事で操ろうとしたのだ。

代償は消失、まるで元々なかったように綺麗に使斗の片腕は対価のように消え去っていた。

 

「ちく……しょう……! アイリス、恨むからな……っ!!」

 

そう叫びながら使斗は失った片腕を求めるように血が噴き出す肩を押さえた。

天城使斗が行使する起源、天城使斗自らが封印している力。

その理由がこれである、強すぎる力は自分の破滅を運ぶ。

相反の能力者である使斗は自分自身を世界から拒絶させられてしまう。

対価は自分の体、自分の命、自分の運命。

剣に対してのみ使った能力でしかない筈だが、被害は甚大だった。

まったく使えない能力、強力であるが故に―――使えば自滅する起源だった。

だが―――それでも使斗は唇を噛み締め痛みに耐える。

嫌な汗が体中から流れ出る、噴出した血は未だ止まらず抑えた手の隙間から容赦なく流れ出る。

しかし、次の瞬間……血の噴出が嘘のように止まる。

それどころか何時の間にか黒い煙のような物体が、まるで使斗の腕のように肩から生えていた。

―――何と悪趣味な、使斗は自分の肩から生えたそれを嫌そうな顔で見つめる。

 

『暫くはその腕で戦ってください、その腕ならば―――幾ら失おうとも再生は可能ですから』

 

使斗の頭の中に直接そんな声が響き渡る。

そして、生えた腕は何時の間にか自分の痛覚とリンクしたように感覚が繋がったようだ。

違和感があるが……これならば確かに剣を振るえる。

 

「パンドラ……か、アイリス―――俺に死より苦痛を与えるか」

『えぇ、使斗は強いですから……数十回、いえ数百回自分の腕を失う痛みに耐えられるでしょう?』

 

そんな声が、笑っているように、頭の中に染み渡る。

使斗はアイリスと契約しているから心と心で会話する事が可能だ。

今までの任務でもそうしてきた、仲介者と呼ばれる彼は幾度となく傷ついてきた。

だからこそ、冷酷ともいえるアイリスの言葉に……しかし使斗は苦笑した。

つまりアイリスは自分に最高の武器をくれた。

起源で失う為の腕を、吸血鬼が存在するこの場所で、頼りになる相棒を。

自分の起源を存分に扱えといっている、聖剣を存分に振るえといっている。

此所まで絶望的な状況は初めてだが、確かに初の幻想神種戦ではこれぐらいの反則が無いと太刀打ちできないだろう。

だから、使斗は苦笑しながら言葉を口にする。

 

「何だ、こんな事が出来たなら最初から使ってくれよ……これなら毎回腕を治して貰う面倒が無くなるじゃないか」

『使斗に恨まれたら私は困りますからね、それに今回は幻想神種だからこその特別です……この能力は普段扱ってはいけない力ですから』

「いや、それにしても助かった―――また両手両足が全部無くなるまで戦う所だった」

『今まではそれで倒せる相手だったんでしょうけど、今回の相手はレベルが違います……玉砕覚悟では勝てませんよ』

「流石は大物、分かった―――精々負けないように祈っててくれ」

 

そう言いながら使斗は剣を黒く濁った手で拾い上げ歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「侵入者―――だと?」

 

ブラッディウォークの最深部、紫の岩肌に囲まれた洞窟の中にノスフェラトゥは存在していた。

金色の長髪に金色の瞳、漆黒のマントで全身を包み込んでいる世界最古の吸血鬼。

原種、原祖、魔王と呼ばれるに相応しい完璧なる不老不死者……ノスフェラトゥは可笑しそうにそう呟いた。

侵入者、まさかそのようなモノが現れようとは思っていなかった。

隔絶された空間に、閉鎖された世界に、終わっている我が城に、侵入する事が出来るモノがいるとは。

 

「そんなものがいるとすれば―――アイリス程度のものだが」

 

まさかあの"魔女"がこの魔王ノスフェラトゥを討伐に乗り出してくるとは予想外だった。

だが……それならばそれで面白いっとノスフェラトゥは笑みを浮かべる。

彼女の持つパンドラには興味があった、奪い取るのもまた一興。

しかし、アイリス自身が単身で乗り込んでくるとは考えづらい。

確かあの魔女は数百年前に人間と契約を交わしたはずだ、ならばその使い魔じみた者も一緒であろう。

そうなると……外に放っている吸血種だけでは倒せないだろう。

何せ相手はあのアイリス、人間の皮を被ったあのバケモノだ。

姿形は少女のそれだが―――既にアイリスは数百年生きた魔女。

パンドラという世界に存在する最早人間の域を超えた超越者。

 

「ならばこちらもそれ相応の対応を取らせて貰おう……ストリゴイ、クドラク、ヴァルコラキ―――魔女を殺してこい」

 

ノスフェラトゥは暗闇に向けそう指示した。

返事はない、だが気配が消えた。

確認するまでもない、ノスフェラトゥは吸血鬼の頂点。

その命令は絶対、外れた吸血鬼以外はノスフェラトゥの命令には逆らえない。

原種、最古の吸血鬼はそれだけの力を持つ。

 

「……それにしてもパンドラ、アイリスが我の討伐とはな」

 

ノスフェラトゥは愉しいそうに笑う。

 

 

「存在を否定する事がアイリス如きに出来るものか、我は生きているわけではなく存在しているのだからな」

 

 

to be continue……

 

 

 

 

 

 

あとがき

最早気にせず更新、実は最初は更新するつもりなんてなかった話。

何故か外れるお話し、時代背景は不思議空間。

聖剣出てきます、起源者出てきます、幻想神種出てきます。

ですけど暫く続き書きません。

何てったってこれは第三部に関係する話なんで(ぇ

というわけで有るか無いかの三部設定を元に作られたお話しです。

なので投げっぱなしで終わります、未来なのか過去なのか今なのか。

そんな不思議なお話です、ちなみに否定者や紅髪少女の出番は一切予定されてない外伝。

まあ気にせず次回の更新からは普通にロード本編更新していきます。

 

 

 

 

―――外伝★キャラクター辞典―――

 

【外伝】―アイリス(???歳)―

武装:パンドラ

魔法経験:不明 魔力測定:不明

 

人間要塞の異名を持つ一応の人間。

起源者ではないがその力は絶大であり、絶対封鎖要塞パンドラの所有者。

数百年生きている魔女、しかし魔法は一切使えない。

天城使斗の主であり唯一彼に起源を使わせる事が出来る人間。

普段はパンドラの玉座に座り、何をするわけでもなく、ただ天城使斗の帰りを待っている。

彼以外の人間にはもう数十年間会っておらず、パンドラの外に出た事も殆ど無い。

趣味は紅茶を入れて天城使斗に飲ませる事、ちなみに彼は紅茶が嫌いである。