再生者、そう呼ばれる者は不死者並みの生命力を持ち合わせている。

だが不死者とは違う、再生者とはその言葉の通り体を再生させる者達の事を言う。

それ故に相違点は多々存在している。

不死とは何度殺されても死なぬもの、だが再生は違う。

……再生者は一定程度の損害を負うと復活は出来ない。

不死者はどのような状態でも復活する為に不死と呼ばれるが、再生者はただ再生するだけだ。

つまり生命力はあるが再生力には限界がある。

微塵にされれば再生は難しい、更に再生の仕方にも問題がある。

不死とは違い命を一つしか持たない再生者は命を削りその能力を得ていた。

故に限界は早いもので、人間の寿命を考えるに大きな怪我からの復帰は二十に届く前に尽きてしまう。

しかし不便だがそれなりに使い道があるその技術は、禁術とされているのに対し使用者は絶えない。

そう……今目の前に立っている少女のように。


「毘沙門天、神を気取るか」


祐一は苦痛を抑えながらも不敵に笑う。

確かに単体として少女はかなりの戦力を有している。

人間という限界に挑戦して寿命を削り同じ土俵に上がってきた。

斬られても死に難い少女と不完全ながらも不死を有す少年。

時間稼ぎという事ならこれほど戦い難い相手はあまり居ない。


「だけど、それがどうした」


自分の体に刺さった刀を引き抜き片手で構える。

これで右腕には剣を、左腕には刀を持つ形となった。

しかし二刀流に慣れていないばかりか形状も異なる二つの武器を扱う技量も無い。

祐一は軽く考えた後、徐に左腕を振り上げた。

刀が天井に刺さる、自由落下しない程度には力を込めた。

それを見て少女は難しい顔になる。

武器を取るか、足止めに専念するか。

だが祐一は思う、どちらにしろ目の前の少女に勝ち目は無い。

否定がある限り打倒する事は不可能だ。


「神なんて腐るほど見てきてるが、ロクなのが居ない」


剣を両手で持ち、少女と向き合う。

少女はそれを警戒しながらも目線を天井に移した。

しかしここで刀を取ればその間に祐一は屋上に出られるだろう。

どちらに転んだとしても祐一の優位は揺るがない。


「それに忘れるな、俺だってロクなのが居ない神の"一部"だ」


―――そう呟いて、祐一は迷っている少女へと駆けた。

 

 

 

 

ロードナイツ

 

第八話−T

「終わり逝く否定」

 

 

 

 

―――ユーイチは優しいね。

昔、俺はそう言われた事があった。

目の前で救われなくてはいけない者が、救われてはいけない俺に言った言葉だ。

世界を愛して世界に尽くした者が……否定される。

それが現実であり、それが真実である。

怨む事もせず、憎む事さえしなかった。

そんな者が……世界を憎む俺の前から消え去っていく。

最早救う事など出来ない、否定する事も出来ない。

体半分程度を侵されながらもその者は笑っていた。

―――大丈夫、ユーイチは戻れるから。

笑う、笑う、笑う。

思えば、目の前の者が笑わない日は無かった。

どんな状況でも、必ず笑っていたような気さえする。

それだけの力を持ちながら、それだけの権利を有しながら、最後に行ったのは小さな偽善。

だけど、それは、小さな奇跡を起こす事になる偽善だった。

―――あはは、泣かないで、悲しまないで。

無理だと叫びたかった、嘘だと叫びたかった。

だけど、口から出るのは無理矢理な強がり。

結局は……俺は……目の前で笑う奴が好きだった。

―――最後にお願いがあるんだ、ユーイチ。

頷く、何でもすると誓って。

どんな無理難題でも命に代えてもやり遂げる。

そんな俺の決意を見透かしたように苦笑して、お願いを口にした。

―――ヤハウェを殺してあげて。

そして自分がやらなくてはいけなかった使命を、俺に託して消えていった。

もう……あの笑い声は聞こえない。

 

 

 


まず斬りつけたのは面倒な足だった。

すぐに再生される事を理解しながらも浅く斬りつける。

少女は舌打ちをしながらも屋上の扉まで後退すると拳を構える。

だが祐一はそんな事お構いなしに剣を少女へと投げた。

突然の行動に驚きながら少女は必死に避ける。

狭い屋上では横に移動するしかない、少女も当たり前のようにそうした。

剣が扉に突き刺さる、祐一はそれを確認すると避けた少女へと向かった。

そして足を振り子のように振りかぶった。

体術で再生者の動きを完全に止められるとは思っていない。

だが……それでも相手の行動を一瞬奪う事ぐらいは出来る。

祐一は避けた体勢のままこちらを睨みつけている少女を蹴りとばす。

少女は両腕で防御するがやはりその体はただの子供。

そのまま壁に激突して背中から床に落ちた。


「少女を足蹴に、本当に最悪ですね!」


すぐに体勢を立て直して、忌々しそうにそう叫ぶ。

だが祐一は気にした様子もなく屋上へと向かった。

大体殺しに来ている相手の性別や年齢を気にしていたら命が幾つあっても足りないだろう。

少女を無視した祐一はそのままドアに手をかける。

しかし―――すぐに弾かれたように祐一はその場から飛び退いた。


「結界……か!」


恐らくは少女、上杉謙信が張ったものではない。

一瞬でそれをわからせてしまうほど強力なものだった。

あの扉にずっと触れていたら、何かが起こる。

そんな予感があった、そしてそれを見た少女は一気に距離を詰めてくる。

好機と見たのか、動きに無駄がない。

祐一は向かってくる少女に向き直った。


「邪魔……するなっ!!」


無理な体勢のまま祐一は蹴りを放つ。

だがその一撃は少女に受け止められる。

そしてそのまま少女は足を放り投げるようにして祐一を床に倒すと馬乗りになるような形で体を拘束する。


「うお……!?」

「―――捕らえました」


少女の手刀が祐一の眼球の前に突き出される。

首を裂いて駄目なら視覚を奪うという事だろうか。

祐一は突き出された指を凝視する。

流石にその怪我からの復帰は容易ではない。

これからする事を考えるに、首を斬られるより辛い事だろう。


「……おい、上杉謙信」

「何でしょうか、相沢祐一」


両者とも相手を睨みつけながら硬直する。

少女は相手の眼を盗る事が出来る、祐一はそうなっても少女を打倒する事が出来る。

だが引き換えに、目の前で起こっているものを見逃す事になる。

この勝負、一瞬にして攻守が変わってしまった。

思わず顔を顰めるが何の解決にもならない。


「女が男に馬乗りになるなんて、最悪じゃないのか?」

「そうでしょうか、足蹴にするよりはマシかと」

「あー、そうかい」


諦めたように溜息を洩らす。

迂闊だったとはいえ、今この状況で出来る事は少ない。

完全に諦めたわけではないが、対策が思いつかないのはどうしようも無かった。


「……何でそんなに俺が好きかねぇ」


何気なく呟く、すると少女は冷淡な視線を送ってきた。


「寝言はせめて寝てから言ってくれませんか、寝てから言われても迷惑ですが」


今にも人を殺しそうな視線だった、いや実際に殺す気満々だろうが。

しかし時間がない、屋上では魔剣使いの気配が濃厚になっている。

最悪学園に被害が及べばかなりの数の死傷者が出る事もある。

祐一としては知り合い以外の死者も出来るだけ勘弁してほしい所だが、今の状況では何もできない。

それに、秋桜麻衣子との約束も守れない。


「くそ、本当に最悪だ」


愚痴をこぼしながら祐一は天井を見上げる。

こんな事に時間を取られているわけにはいかない。

だというのに事態はいい方向へは進まず益々困難になるばかり。

本当に、どうすればいいのか。


「……相沢祐一」


冷めた口ぶりで少女は問いかける。

瞳には祐一の表情が映っていた。


「万物の否定、人々の恐れ、災いの者」

「…………なんだ、いきなり」

「私が聞いた話では、あなたは"体内否定"を使えなかった筈では?」


―――瞬間、呼吸音が一際大きく鳴った。

相沢祐一の否定能力は二つに分けられる。

一つは体外否定、世界を否定し万物を否定する能力。

そしてもう一つは体内否定、世界から否定され万物に否定される能力。

二つ合わせて否定。

起源者の中でも異質と呼ばれた能力だ。

だが、謙信はカノンに来る前に相沢祐一の情報を聞かされていた。

あの人類破壊兵器によって相沢祐一の能力の一つ、体内否定が破壊された……と。


「それなのに、あの刀を止めた……あれは体内否定ではないんですか?」

「…………」

「ならば―――破壊に壊された筈の否定が何故復活しているのですか?」


祐一は、答えない。

ただ表情は雄弁に語る。

それは、それだけは、他人に言われたくなかった。

そんな思考が表情にありありと現れている。


「やはり、その否定―――もう使える"回数"が限られてますね?」


謙信は妖艶そうに笑った。

腕を眼前に突きつけたままただ笑った。

否定が残り少ないと分かれば全てが解決する。

要は相沢祐一は、否定する事すら困難になる状況に陥ろうとしているという事だ。

それだけが相沢祐一の根源を支えているものだというのに。


「ふふふ、相沢祐一……初めてあなたが愛しいと想えました」

「そうか、俺はお前が大嫌いだ」


祐一は忌々しそうに呟くと、しかし何も出来なかった。

確かに、ここで否定を使えば相手を打倒する事は可能だ。

簡易否定ならば使用する事にそんな制約は無い。

しかし―――今此処で使う事が正しいのかはわからない。

何せここを突破した後、戦う相手は規格外だ。

魔剣使い、同じ起源者。

それだけならばまだいい、だがそれ以上の相手が待ち構えていたら。

少しでも消耗した状態では勝てる勝負も勝てない。


「こうなれば、もう頼るしかないな」

「まだ何か企んでいるんですか?」

「俺には何もない、お前の足止めは完璧だ」

「それならば、何を……?」


謙信は知らない、否……知っている筈だ。

だがそこに思考するまでに至らない。

それは謙信が相沢祐一だけを見ていたから。

仕切り直しの刀を使っていたからなのか、いやあれは本人には適用されない。

ならば……視野の狭さが謙信の弱点だろう。


「待ってるのさ」

「待つ、何をですか?」

「いちいち聞いてくるな、たまには自分で考えろ」


祐一は心底可笑しそうに嗤った。

 

 

to be continue……

 

 

 

 

 

 

あとがき

駄目だ、忙しすぐるorz

あとがき書いている時間さえ惜しいとは……びっくりだぜ(ノДT)

もう少し早く描けるようになりたいな、うん。

 

 

 

―――第二部・第七話−T★用語辞典―――

 

再生者