一つ、継げることが有る

 

それは決して私用を禁ずる絶対の技、使えばその身確実に滅びを辿ると知れ

力持て、成れば為すべき事自ずと解ろう

 

契約を、契約を、契約を

 

今よりその身、祖が望むべきものたれ

今よりその魂、一切の汚れを禁ずる

今よりその心、溶けぬ氷結を知れ

 

喝采を、喝采を、喝采を

 

身の破滅を悦べ

自の崩壊を歓べ

心の決壊を喜べ

 

命令を、命令を、命令を

 

身を穢すものを知れ

身を堕とすものを知れ

身を曝すものを知れ

 

 

 

 

今、この時より我等は一つ

故に、汝に名を授けよう―――我が名"ヤハウェ"……っと

 

 

 

 

ロードナイツ

 

第五話−V

「終演の再開と、終焉の始まり」

 

 

 

 

記憶の欠片を検索する。

浮かぶモノは、ただただ優しい日々。

騒がしくとも、喧しくとも、響くのは心への旋律。

殺されそうにもなった、傷つき泣きたくもなった、だが―――それは自分が生きている証拠。

生命の危機を感じる事も、怪我して痛覚が狂い叫ぼうとも、それが生きている証明。

破壊を持った少年がいた、罪を許せない青年がいた、世界の真理を知った少女がいた、愛する者を守ろうとした女性がいた。

他にも沢山、沢山の人が私と関わって、日々を過ごしていた。

それは確かに優しい日々だった……筈だ。

思い出が構築され出来事を修復し、今の自分へと注ぎ込む。

まだ……大丈夫だ、完全に飲まれてはいない。

それもそうだろう、如何に奴とて万能ではない―――未だ戻らぬ力では完璧に支配などできはしない。

だから、ここで私が堕ちるわけにはいかない。

快楽に、破壊と絶望と殺戮と虚無と嫌悪と好悪に、負ける筈がない。

あぁ…………………だから思ってなどいない。

神殺しの御子など有り得ない、神を殺す存在など居るはずがない。

否定する、否定する、否定する。

己が内を否定し尽くす、こんなもの認められる筈もないと。

そうしなければ―――今にも―――世界を―――■したくなる。

 

 

 

 

「朽ち果てても変わらないものがある……そうは思わないかね?」

 

あの男は私はそう言った、私は無垢に頷く。

目の前の男、眼鏡をかけ軽く口だけは笑っていて……それでいて瞳はいつも憎悪に染まっていた。

だが……その頃の私はそんな事にも気づけず、ただただその男の言うことを信じ続けていた。

 

「そうだ、例えば人間……朽ち果てても朽ち果てても害虫の如く這い出てくる人間共―――彼らの生命力は本当に大した物だ」

 

こんな世界で、こんなか弱い種族が、今のこの地で生きるどんな生物よりも多く繁殖している。

それは驚愕、恐らくこの世界の魔物と呼ばれる種族達はどれだけ不思議に思っただろうか?

下等動物、その辺で生きるただの害虫のような人間が、いつの間にか数を増やし力をつけこの地に君臨していた。

個々の優劣ならば比べるまでもなく人間という種族は最低値に近い、だが人間は確かに強かった。

どれだけ数を減らしても、どれだけ圧倒的な力を見せても、彼らは諦めない。

一人一人では絶望し、ただ朽ちていくだけだが―――集団になった瞬間彼らは恐ろしい。

協力し、鍛錬し、微弱ながら戦力を蓄え反撃する。

彼らは勝利を渇望していたのだ、彼らは立ち塞がるもの共に恐怖し―――力に変えていたのだ。

 

「それが私達人間だよ、神月の御子……"藤間麻衣子"」

 

男は嬉しそうに私の頬を撫でる、私はただそれを黙って見ていた。

御子になった私は世界を救う為に、心を持つことは許されない。

だから無心にただただ男の言うことを聞き、見て、時にはその力を使う。

何人もの御子候補達が敗れ、散っていった頂点に……私は今立っていた。

 

「それで……だ、藤間麻衣子―――私は思ったのだよ……そんな強大なる力を持つ私達はどれだけのモノを相手に出来るのかとね」

 

手が頬から徐々に喉へと移り肩へと渡り―――私の左腕を掴んだ。

左腕に僅かなる苦痛が混じる、だが私は抵抗せずにただ前だけを見つめている。

 

「集団なる私達は強い、この世界では私達が最強といっても過言ではない」

 

それは事実、今の人間達ならば負けはない。

どれだけ死のうとも、どれだけ恐怖しようとも、最後には必ず人間が勝つ。

例えば幻想神種と呼ばれるもの共にも、全世界の人間が立ち向かえば勝てない相手ではない。

神と呼ばれるものにも限度はある、力は無限でも有限たる人間達には勝てない。

何しろ……人間達は数が減ろうとも、時が経とうとも、自分達を恐怖させる相手には構わず立ち向かっていく。

親が挑み、子が挑み、孫が挑み、曾孫がトドメを刺す。

彼らがいくら究極の一でも、我等は何時でも一の無限なのだ。

 

「だから私はお前に力を与えた、お前は最強でも最弱でも最低でも最高でも最凶でも最知でも何でもない……ただの極致たる者だ」

 

それが―――藤間の御子、神月の翼……ヤハウェ、藤間麻衣子の役割。

 

「お前には起源者でさえ路上の石ころに過ぎん、容赦なく殺し尽くせ」

 

 

 

 

「"宵の明星"よ、このような時に何をしている?」

「あぁ、"高き館の主"……君まで来たのですか」

 

まったく、今日は来客が多い……厄日ですね。

ヤハウェが軽く目覚めるかどうかの瀬戸際だというのに、不運が重なり過ぎですよ。

私の前に現れたのは一人の大男、黒き外套に身を包み帽子を被り顔を隠している。

全身を漆黒を纏わせている彼は先程の少年とは違い、唯一見えている瞳だけが琥珀色に輝いていた。

 

「"まで"……とは?」

「あぁ、先程"破壊する杖"が来ていたのですよ―――恐らく"裟耶狐"様の使いでしょう」

「空狐……か、哀しいな宵の明星よ、我等幻想神種たる者が最早残りが"五体"とは」

「あぁ、八俣遠呂智、カイン……失礼、ノスフェラトゥ、ラプラスの悪魔、アザトゥースはまだ滅してはいませんよ」

「戦力にならない時点で使えぬ、特にラプラスの悪魔とアザトゥースは元々やる気があるまい」

「あぁ、純粋な力だけなら最高レベルなんですけどねぇ、特にアザトゥースは」

「最強でも思考を持たぬ故に永遠に踊り狂っているだけの肉塊など放っておけ」

「あぁ、あなたは本当に容赦がないですね」

 

しかし確かに彼らは使えない……というより何を考えているかわからない。

不確定過ぎて戦力に入れるわけにはいかない。

それにしても……この数十年でどんどん幻想神種の数が減少している。

 

「節制に創造に否定……奴らにいいように踊らされたな」

「あぁ、特に節制は"パンドラ"を所持している主がいますからねぇ……彼に既に3体もの幻想神種を討たれたようですねぇ」

「更には奴は普段パンドラに引き籠もっているらしいから我等からは手が出せぬ……か、大したものだ」

「あぁ、でもまあ―――厄介な私達を後回しにしている時点で彼らの底は見えますけどね」

「"勝てぬ相手"には挑まぬ……余程大事にされているのだな、あの魔女に」

「あぁ、魔女……アイリス、元は"私達の仲間"だった筈の彼女が何を思ったか人間になるなんて―――何を考えているのでしょうね」

 

まあそんな事はどうでもいい、そんな事より今はヤハウェだ。

彼女さえ完全に目覚めてくれればヤハウェはすぐにでも蘇る。

すれば直ちに審判は始まる―――待ち遠しい。

 

「だが元はと言えば宵の明星、貴公が他の幻想神種を二体葬った事も問題だと思うが?」

「―――彼等はヤハウェに対し侮辱を吐き出したのだ、当然の報いである」

「ふむ……まあいい、滅した者達の弱き力が悪いのだからな」

 

私はそれには答えず視線を窓の外へと向ける。

あぁ……最早止まらない、力の波動が伝わってくる。

覚醒か、進化か、羽化か、強化か、昇華か……何でもいいが目覚めの時は近い。

随分時間がかかっているが、恐らくもう保つまい。

 

「あぁ、しかし運命とは奇妙なものですね」

「……何の話だ?」

「あぁ、ヤハウェは世界の真の支配者、それが何故人間如きに憑いているのか」

「…………人間は強い、それは確かだ―――気に入らなくとも事実は変わらん」

「あぁ、弱気ですね"暴食者"ともあろう者が」

「"堕天使"の貴公が気楽なのだ……思ったことはないか、不死者である我々を何故滅せる存在がいるのか」

「……あぁ、そうですね、気になります」

「我はこれはヤハウェ…………つまりは"神の意志"だと思っておる」

「―――それはどういう意味だ、"蠅の王"」

「言葉通りだ、"傲慢の叛逆者"」

「―――つまりは、ヤハウェは不死を否定したとでも?」

「他に考えられるか、人間如きが……ここ百年単位で"ただの一般人"が"不死殺し"を持つ時代だ」

「…………あぁ、わかってますよ、最近の異常は」

「聖剣、聖槍、魔剣、魔槍、神刀、魔法、法術……そして起源、上げればキリがない」

「あぁ、確かに人間達は強くなってる、だがまだ私達を脅かすほどじゃあないでしょう?」

「否定に創造……これらが我等を脅かさないとでも?」

「……あぁ、そういえばそんなのもいましたね」

 

確かに、奴らとまともにぶつかれば……私達も只では済まないだろう。

しかし、負ける気がせぬのも確か、勝ちはしなくとも負けもしないだろう。

そういうレベルの相手だ―――問題ない。

 

「それにしても……人間の起源者は残り何人ぐらいなのだ?」

「あぁ……私が知ってる限りでは十二程度ですかね?」

「奴らも大分減ったな、両者とも本来ならば"二十二"はいる筈だが」

「あぁ、内乱、戦争、抗争、私闘……人間共も一筋縄ではいかないという事でしょう」

 

それに寿命の問題もある、人間は酷く短命だ。

その割にはよく増えるが、起源者は一代限りの能力者……親から子へと受け継がれるものではない。

個が死ねば個へと移る、それだけだ。

もっとも……もう起源者の補充も間に合わぬだろう。

―――審判はどう足掻いても、すでにそこまで来ている。

だから、両者とも、今の数で戦うだけだ。

 

「となると我等が五、奴等が十二……一体辺り大体二人の計算だな」

「あぁ、否定と創造は一体一体当たった方がいいでしょうから実質三対十ですよ」

「……一体辺り三人か、流石に厳しいか」

「あぁ、問題ないでしょう……今残っている幻想神種は大体が優劣の差が激しくない者達ばかりです」

「ふむ、それもそうだな―――ガルムなどは好んで五、六人は相手をしそうだ」

「あぁ、そうでしょうね……そう意気込んで真っ先に消滅するタイプですよね」

「違いない、臆病な犬の癖に劣悪なる番犬と言い張っているぐらいだからな……プライドだけはある」

「あぁ、でも力の程は心配ないですよ、ガルムは確かにフィールドさえ作れれば起源者とて怖くはない」

「逆に言えばフィールドを作れない場合はただの犬コロだがな」

「あぁ、そうでしょうね」

「さて、そろそろ腹の探り合いにも飽きた……単刀直入に聞こう、我等は勝てるか?」

「あぁ、ほぼ間違いなく……私達の勝ちでしょうね」

 

―――元より、これはそういう勝負なのだから。

否定だろうと創造だろうと、私達が全力で当たれば……万が一もない筈だ。

 

「あぁ、だから心配ありません―――創造も否定も……所詮はただの人間なのですから」

 

 

 

 

そして、彼女は目覚める。

過去の記憶の欠片を胸に宿したまま、不完全に。

それは始まりであり終わりであり、そして再生の日であった。

後に、一人の男が自伝を書くとき、この日をこう記すこととなる。

「在る神は無き神に供物を与えぬ」っと。

 

 

 

 

to be continue……

 

 

 

 

 

 

あとがき

よし、責任者出てこい(ぇ

レポートがですね、ありえないんですよ。

手書きで原稿用紙二十枚分、一教科で。

やってられるかー!!!(#^ω^)ノ

今回は説明会、色んな人出てきます。

うむ、大体形は……ゴチャゴチャして見えないっすねー(マテ

そろそろ浮き彫りになると思うんですが、多分。

 

 

 

 

―――第二部・第五話−V★用語辞典―――

 

取りあえず休憩中