カノン騎士団、それはカノン国を自らの生命を賭け守護する選ばれた者達。

厳しい試験を乗り越えて選ばれる騎士達はそれぞれ高い戦闘力を誇る。

戦争で奮戦した彼らのお陰で被害は最小限に留まったといっていい。

何しろ敵はほぼ無限、そんな相手に約一日戦い続けたのだ。

確かに騎士団以外の人間達による抵抗も大いに関係していた。

だが、やはり量で攻めてくる相手に対して量で立ち向かった騎士団の働きは大きい。

カノンという巨大な舞台を中心に市民達を守るために展開した部隊は数知れず。

そしてその中でも実質、敵を一番多く仕留めた部隊があった。

王国精鋭騎士部隊第3迎撃小隊、魔法使いと剣士が混成したカノンでは珍しい部隊だ。

彼女らは水瀬秋子の指示に従い、敵が一番多く出現していた自国の出入り口に防衛戦を張っていた。

カノンの出入り口は全部で四つ、四方に一つずつ配置している。

だが魔物達が攻めてきたのは二つの出入り口からのみであった。

故に騎士団の主戦力は出入り口付近に殆どの部隊が配置されていた。

凡そ2大隊分もの騎士達が防衛戦に参加していたのだ。

しかしいくら騎士団と言えども一日中戦い続けたために時間が経つにつれ段々と数が減り戦力が無くなっていった。

そこで仲間の後退、撤退を護衛するために前線に出て少数精鋭で敵に立ち向かったのだ。

ある者は魔法を唱え、ある者は剣を振り敵を打倒し続けた。

紅い少女が倒れた時も、学園が危機をむかえていた時も、空が真っ黒に染まった時も。

ずっと、ずっと彼女らは孤立無援で自らの武を振るい続けていた。

当時八人いた小隊は一人、また一人と敵の猛攻に倒れていった。

しかし、そんな絶望的な状況でも倒れなかった者達がいた。

 

 

 

 

それはこの部隊の隊長と、そして副隊長の二人だった。

 

 

 

 

ロードナイツ

 

第四話−W

「魔法術使い」

 

 

 

 

「というわけで、法術の教えを請う為に寄らせてもらった」

「……まあ言いたいことは多々あるのですが、まず第一に……何故私が法術使いだと?」

「雪狼……いや、エリスっていう子に聞いた」

「情報屋ですか、確かに私の情報を探る事は別段難しい事ではないのでしょうね」

 

そういいながら、天野美汐は訪れた訪問者に視線を戻した。

金髪の少年、確か名前は北川潤……と言っただろうか?

その彼が先程私の部屋に訪れてきた。

理由は単純明快、先程言ったとおり法術の勉強をしたいという事だった。

流石に驚いた美汐は、しかし取りあえず辺りを見渡した。

……真琴はいない、恐らく食堂に食べ物を貰いにいったのだろう。

時刻はそろそろ昼時、私がちょっと目を離した好きに部屋を出て行ったようだ。

確認して、美汐は軽くため息をついた。

さて、目の前の問題に戻ろう。

彼の事は多少知っている、この国に来る前にリストアップされた人物達の中に名前が有った。

曰く、彼と戦闘状態になった場合は即座に退却すること。

勝てると思うな、勝とうと思うな、負けると思え、負けないと思うな。

任務を遂行するまでは北川潤とは戦うな。

それが私達に下された命令の一つ、まあこの国はそんな輩がゴロゴロいる。

まず水瀬秋子、彼女は勿論危険度最大値の基準外。

詳しい力の詳細など一切記載されておらず、彼女の欄にはこう一文が存在するだけ。

―――敵対した場合、即座に舌を噛み切れ。

つまりは抵抗もするな、自害しろという馬鹿げた命令だ。

それに川澄舞、彼女の場合は少し特別で、出来れば交戦しろという命令が下されている。

そして戦った内容については逐一報告する手はずとなっている。

恐らく……それほどまでに重要な役割をもつ少女なのだろう。

だがその内容を美汐が知る意味も権利も無い。

ただ、交戦するだけでいい……何も考えずに。

彼女らの他にもカノンでは警戒するべき人物が大勢居る。

その一人である北川潤が目の前に居るのだ、当然警戒はする。

 

「それで、えっと天野さんだっけ? 法術を教えてくれるのか?」

「返答はこちらの質問次第です」

「質問って?」

「あなたは魔法使いです、何故法術を?」

 

別に法術を他人に教えてはならないという規則はない。

だが彼は魔法使いだ、法術を覚える必要が何処にあるというのか。

神秘をただ習得したい、知識を集めたい……だけなら問題ない。

問題は習う者の人間性、悪用しない人物である事。

ここで問う悪とは、自分達の正義に反する者。

つまりは法術を習うと言うことは、最低でも今後絶対の不干渉が条件となる。

それが出来るのか、私は北川潤に問う。

 

「つまりは俺が天野さん達に対して今後何もしなければいいと?」

「そうです、例えば私がカノンの王様を殺害した場面を見てしまったとしても知らない振りをしなければなりません」

「……カノンにいるのにまた大胆発言だな」

「例えです、それにこれは契約の一部ですからもし誓いを破れば私達の誰かがあなたを確実に殺すでしょう」

 

それが条件。

未来、如何なる場合でも天野美汐、沢渡真琴両名の行動に対し何の拘束力も指示も権限も持たないと誓えるか。

つまりは絶対の服従、法術という神秘を習いたいのであればそれなりの代償を差し出して貰う。

美汐は強い意志を込めて北川潤を見つめる。

それをどう受け止めたのか、北川潤は軽く天井を見上げると唸り声を上げる。

流石にこの条件を呑むことはできないのか、返答が無い。

だがそれはそれで構わない、第一魔法使いが法術士になろうという時点で可笑しいのだ。

確かに法術はある意味で、魔法以上に力のある術だ。

しかし魔法の多様性、便利性を考えると単発でしか発動出来ない法術は扱いにくい術でもある。

それに習う事は簡単だが、習った後……実際に使うとなると話は変わる。

法術の基本は使わないこと、魔法と理念がまったく違う。

ただ力を持ちたい者のみが習う術であり―――魔法使いが目指すモノとはかけ離れている。

強い力は常に破滅と隣り合わせだ、法術なんてモノを使わなくとも魔法の方が便利だ。

それでも、身の破滅を覚悟して巨悪に立ち向かう者達が決意し魔法以上、剣以上の異なる力を求めた時……人は法術や禁術を選ぶ。

人間に過ぎた業、それが法術だ。

 

「一つ例外を作ったら駄目か?」

「……例外?」

「あぁ、普段その約束は守るがある一人の人間に対して危害が加わるようなら俺は多分誓いを破って行動する」

 

そう言った北川潤の目は本気だった。

恐らく本当に彼は誓いを破り敵対する覚悟にあるのだろう。

どれほどの力が私達についているかもわからない状況で、ある意味無謀とも言える契約に対しての異議。

しかし契約は絶対だ、逆らうことは出来ないし変更する事も出来ない。

だから美汐は首を振る。

 

「例外は作れません」

「駄目か……なら契約は無理か、俺は裏切る前提だ」

「その一人の人間が誰か……聞いていいですか?」

「あぁ、まあ構わないけど」

 

北川潤はそう言うと軽く照れたように鼻頭を掻いた。

 

「北川八雲……俺の母親だよ」

 

 

 

 

白岐綾という少女は昔から一人の女性に憧れていた。

カノンに来るより前から、その女性の噂は耳にしていた。

彼女の名前は北川八雲、カノン騎士団最強クラスの騎士であり有名な北川家の出身。

"業火の戦塵"、"魔法使いでありながら魔法を一切使わない"騎士。

変わりに魔槍、フレイムランスを扱う一騎当千なる者。

どうやら北川家本家から魔法を使うことを禁じられているらしい。

騎士団に配属されるなんて事は北川家にとってあまり嬉しい事ではないのだろう。

秘術の隠匿が第一の魔法使いの家系としては確かに納得できる理由だ。

だから彼女の手の平と額には黒い刺青のような呪術が宿った文字が入れられている。

魔道具が無ければ魔力の行使さえ出来ない魔法使い。

だが―――それでもカノンでは最高位の騎士であることは間違いない。

能力を限定された状態での彼女は、しかし戦う姿に鬼を連想させる。

白岐綾は彼女と一緒の部隊で戦いたいが為に騎士団に入った。

外部の、それも少々特殊な武器で戦う彼女は騎士団に入るまでに様々な挫折や失敗を繰り返した。

だが執念があり、決意があった。

そして彼女が北川八雲の噂を初めて聞いてから4年後、遂に綾は騎士団入りしたのだった。

その後、様々な出来事があり……現在では彼女の希望通り北川八雲が指揮する部隊、王国精鋭騎士部隊第3迎撃小隊に所属した。

部隊の役割は貴族、または王族の身辺の警備……ではなくカノンに害なす者に対し攻撃を仕掛ける文字通りの迎撃部隊。

しかも彼女らの部隊は所謂遊撃隊、本隊とは離れ独自に行動する特別小隊の一つだ。

何故ならばそれほどまでに他部隊との戦力差があり、精鋭騎士に恥じない武力を有していた為だ。

本隊の連携を崩さない為にも彼女らは小隊規模で行動し、時には防衛、時には突撃を任される。

そんな実戦が基本の厳しい小隊の中で、白岐綾はトントン拍子で出世し――隊の損耗率が高い事も一因である――副隊長にまで上り詰めた。

それが……約一年前の事。

 

「王国防衛隊第27魔法中隊所属アベル・マティーヌ―――征きます!!」

 

カノン城中庭演習場、そこで一人のまだ歳の若い騎士がそう叫びながら手に剣を持ちながら走り出した。

目標は目の前、歩いて数歩程度の位置に居る長髪の金髪が印象的である女性。

若い騎士、アベルは敵の得物に軽く目線を移した。

相手は中距離が基本の槍使い、懐に入れば剣の間合いだ。

特に相手が絶対に魔法を使わないのであれば体術以外での対抗策は無い。

それに相手は女性、基本的に体力が違うし力も違う。

しかも今相手との距離は始めから槍の間合いではない。

つまり総合的に考えて―――負ける要素が見つからない。

緊張したような空気が刹那に木霊する。

周囲で見つめている騎士達も走り出したアベルの動きを目で追った。

ホンの数秒、それがアベルと対戦相手である彼女との間合いをゼロにする時間だった。

 

「―――貰ったっ!!!」

 

アベルは既に間合いに入っているにも関わらず構えもしない女性に対し剣を振り下ろした。

勿論寸止めはするつもりだし、万が一少し斬りつけてしまったとしても近くに魔法使いが待機している。

心配する必要は無い、両者の身体には物理防御の魔法が何重にもかかっている。

恐らく魔法を使わない今の状況ならば両者とも相手に即死出来るほどの損傷を負わせることはないだろう。

だからアベルは迷わない、未だに軽く顔を伏せただ真紅色のランスを右手に持ち脱力している相手であろうと関係ない。

これは模擬戦である、しかも騎士の面子がかかった大事な一戦だ。

そんな時にこんなやる気の無い隙を見せた方が悪い。

そうして―――アベルの本気で振り下ろした剣はその女性へと降り注いだ。

 

「………………うん、良い覚悟だよ」

 

その声はアベルの耳元で囁かれていた。

剣が振り下ろされる、だが―――其処に彼女の姿は無い。

転移魔法、いやまさか……相手が転移を使える筈がない。

ならば何故あんなタイミングで振り下ろした剣が直撃せずに地へと振り下ろされたのだ。

だが混乱はしない、元より相手は自分より格上の人。

アベルは一瞬にして思考を切り替えると振り下ろした剣から手を放し一気に相手が消えた前方へと転がるように前進した。

瞬間、アベルの居た場所に真紅の軌跡が鮮やかに咲いた。

アベルは顔を顰めながらその様子を確かめる、其処には槍を突き出した彼女の姿があった。

凡そアベルが先程立っていた場所のすぐ近く、先程耳で囁かれた場所……つまりアベルが立っていた隣だ。

長い金髪が派手に宙に舞い、突き出した槍の威力が伺える。

そして覗く彼女の素顔、その額と槍を持つ手の平には漆黒の文字が刻まれていた。

目線がギョロリとアベルの方向へと向く。

―――刹那、アベルはおぞましいほどの殺気を感じた。

全身に鳥肌が立ち手が震える。

思わず後退しそうな足を意思の力で抑えると、周りで見ていた騎士の一人が放り投げてきた変わりの剣を受け取り構える。

模擬戦では自分の部隊の仲間達といえども原則手を出してはいけない。

しかし彼女と模擬戦する場合は別だ、彼女はいつも模擬戦のルールにこう付け足す。

 

『私に隙があると感じたら構わない、観客もいつでも参加して』

 

つまりは今集まっている彼らは全て彼女の敵、そんな模擬戦だった。

しかし現在彼女に向かい合っているのはアベルただ一人。

それもそうだろう、元々彼女は一対一に適している戦い方をしていない。

彼女は一騎当千の騎士だ、敵の数は多ければ多いほどに彼女の能力は上昇していく。

だからこそ、迂闊に手を出せば負ける。

彼女に勝てるとすれば一対一に持ち込み実力で打倒するしかない。

但し―――打倒する事が出来れば……の話ではあるが。

 

「何故手を抜かれたのです?」

 

アベルは軽く震えながらも気丈に睨みつけてくる女性に問うた。

そう、彼女は明らかに手を抜いている。

先程の斬撃の際どうやって移動したかは知らないが一瞬で隣に立っていた。

本来ならばあのまま身体を貫かれて終わっていただろう。

だが……彼女の囁きによってアベルは即座に行動を起こせた。

それでも紙一重、恐らく彼女が囁かなければ既に終わっている勝負。

だからこそ―――騎士であるアベルは納得がいかなかった。

 

「若いわね、そういうのおばさん結構好きよ」

 

睨みつけていた表情を一瞬で変え微笑みながら突き出したままだったランスを肩に担ぐように定位置に戻した。

華奢な体つきの筈の彼女には不釣り合いのランスだが、何故かまるで彼女専用に作られた物のように似合っていた。

 

「―――だけど騎士として自分の生を喜べないようじゃまだまだ三流、出直してきなさい」

 

そう言うと乱れた長髪を軽く片手で流しながら"狂喜そうに"笑った。

あまりの迫力に周りにいた騎士までも息を呑む。

自分達は敵対していないはずなのに、知らずに身体が強張る。

今にも、誰にも彼にも構わず襲いかかってきそうな狂気が彼女の笑顔にあった。

そんな狂気を目の前で、しかも敵対している位置にいたアベルが正気に受け取れる筈も無く……恐怖に支配される。

魔物が襲ってきた前の戦争とは違う。

それ以上の怖気がアベルの全身を襲っていた。

 

「――――――ギッ!」

 

だがアベルはそんな感情を、自らの唇と噛み締める事により僅かの平静さを取り戻させる。

あまりに強く噛みすぎて血がまるで斬られたかのように噴き出した。

流石に騎士、戦闘に関してならば彼らは熟練した戦士なのだ。

 

「はっ、はっ、はっ……ふぅー」

 

呼吸を整える、意識を集中する。

負けられない、負けたくない。

相手がどれだけ高みにいようと関係ない、それを打倒するのが自分の願い。

だから、全力で相手と戦うんだ。

 

「誰かっ! ハルバートを持っているか!!」

 

アベルはそう叫ぶと持っていた剣を軽く振りかぶり……そのまま目の前に悠然と立っている女性に向かい剣を投擲した。

狙いは彼女の心臓、一撃で仕留める為の急所。

だか彼女は軽くランスを振り下ろすと投擲した剣をあまりにもあっさりと打ち落とした。

だけれども、周りで見ていた騎士がハルバートを届けてくれるまでの時間は稼げた。

恐らく……こんな事をしなくとも彼女は待ってくれていただろう。

しかし騎士のプライドが許さない、誇りは譲れない。

これは模擬戦なれど立派な闘争。

ならば……そんな施し、受けたくもない。

 

「アベル、受け取れ!」

「ありがとう、感謝する」

 

アベルは騎士から使い古されたハルバートを受け取ると手慣れた手つきで構えた。

これでお互いの得物の間合いは少しは近づいた。

しかし所詮ハルバートは近距離武装、近づいただけでお互いの狙いは変わらない。

アベルが如何にして近づくか、彼女が如何にして距離を保つか。

それで勝負が決まる…………少なくともアベルはそう思っていた。

 

「へぇ、良い構え……アベルって結構そっちの方が向いてるんじゃないかしら?」

「…………ありがたいお言葉です」

「でも勘違いしないで、今あなたはとても愚かな選択をした」

「―――――――え?」

 

刹那、彼女の長髪はまるで川の流れのように一直線に靡いた。

アベルは驚愕に目を見開く。

中距離武装であるランスを持って……彼女は止まることなく近距離の間合いにまで距離を詰めてきていた。

突撃ではない、槍を片手で真横に向け持ち―――まるで剣のように扱っている。

しかし……槍とは突くものであり、振るものでは無い。

その巨大さが邪魔をしてどうしても振りかぶる際に時間がかかる。

だから槍使いは相手を懐に入れてはいけないし、ましてや自分から突っ込んでくる事はまず有り得ない。

なのに―――彼女は止まることなく走る。

まるで先程アベルがした再現。

彼女は何を思ったか……槍をこちらに向けるのではなく上空に向け振り下ろす体勢で構えた。

 

「甘い―――間合いを舐めるなっ!!」

 

アベルはそんな彼女に向けてハルバートを構える。

間合いは確実にアベルの領域、ハルバートならすぐに撃退できる。

先程自分に放たれた槍は確かに速かった……だけどそれだけだ。

いくら速かろうとも、あの程度―――所詮はただ速いだけ。

ならば……ハルバートがこの間合いで出遅れるなんて事は有り得ない。

 

 

そうして、ハルバートは彼女に向かい……振り下ろされたランスはアベルの想像通り間に合わない。

―――だからこそ、彼女―――北川八雲は先程浮かべた狂喜の笑みをもう一度浮かべる。

 

 

彼女の動きが変わる。

何て事はない、恐れることは何もない……筈だった。

だけど一つの不安要素は、存在していた。

―――先程からランスを全部片手で使っていた事に違和感を覚えていたのは確かだったのだ。

彼女、八雲の左腕に添えるように今まで使われ居なかった右手が動いた。

右腕が、ランスを持つ左腕に重なる。

そして―――それは起こった。

 

「―――砕けよ、大地」

 

そう呟いた声を、聞く者は居なかった。

何故ならば、それ以上の轟音……その名の通り鼓膜を破壊せんとするが如く音が辺りに轟いた。

それはまるでエクスプロージョン、爆炎が舞ったかのように辺りが一瞬にして土煙に覆われた。

周りで見ていた騎士達は皆耳を押さえ地面に転がった。

そして―――暫くして土煙が晴れた時、騎士達は全てを悟った。

其処には戦鬼が、真紅の槍を両手で持ち地を砕いている姿が在った。

更には近くで腰を抜かしたように尻餅をついているアベルの姿。

そして、恐るべきはその威力。

ランスが振り下ろされた先、地面には先程戦っていた場所ではない空間が存在していた。

それは砂地、地を砕き石を砕き下にあった筈の岩までも砕いた結果がこれだった。

確かに魔法や魔力の手助け、付加があればカノンでも可能なものはいるだろう。

だがこれは彼女自身の力、魔法を使えない彼女が手にした力。

それがカノン騎士団最高位の騎士、北川八雲の実力だった。

 

「あーあ、もう歳ねぇ?」

 

そう言いながら八雲は振り下ろしたランスをまた片腕に持ち替え肩で担ぐ。

アベルはそんな彼女を見ながら、しかし呆けたように無表情だ。

恐らくまだ感情が追いついていないのだろう、その内"意識"を覚ますはずだ。

だがそれより問題なのは彼の聴覚だった。

 

「治療班、すぐにアベルと見てあげて……恐らく両方とも鼓膜が完璧に破れているから」

 

彼の耳からは今では絶え間無く血が流れ落ちている。

それもそうだろう、八雲のランスが直撃しなかったとはいえ……いや、直撃させなかったとはいえあんな至近距離で喰らったのだ。

どんなに頑丈な奴でも鼓膜を奪うくらいの事は出来るだろう。

 

「しかし……まあ、カノン騎士団もまだまだ未熟だねぇ!」

 

八雲は嬉しそうに辺りを見渡す。

其処には恐怖に満ちたアベルの仲間の騎士達がズラリと。

丁度良い、活きの良い獲物が沢山。

―――時間までに喰い尽くせるだろうか?

 

 

「しょうがないから仕事の時間まで相手をしてあげる、おいで―――坊や達?」

 

 

to be continue……

 

 

 

 

 

 

あとがき

クロノベルト発売ktkr

現在約4作品のゲームをやってます、うわ石を投げないで(つДT)

魔銃いいよ魔銃。

寝る間も惜しんでやってます、大学サボってやってます。

―――咆吼!咆吼!咆吼!(何

遅れたことについてはお詫びを、さてゲームゲーム(殴

だけど今思うと北川八雲タンってそこまで強そうに見えない罠。

あくまで一般人レベル、騎士団なんてそんなもんですよ、えぇ(マテマテ

恐らく実戦レベルではこんな感じ。

秋桜麻衣子>相沢祐一(簡易否定)>>>川澄舞(通常)>>北川八雲。

まあ戦闘なんてその時その場で勝敗が決まるから大して意味のない図。

 

 

 

 

―――第二部・第三話−V★用語辞典―――

 

取りあえず休憩中