七大悪魔とはもっとも力のある悪魔達の総称である

 

傲慢のルシファー

暴食のベルゼブブ

色欲のアスモデウス

怠惰のベルフェゴール

強欲のマモン

嫉妬のレヴィアタン

無価値のベリアル

 

その力は幻想種の中でも最高ランクの力であり、特にルシファーとベルゼブブの力はそれ以上とも云われている

彼らは不死とも不老とも云われている存在であり伝説上の悪魔達である

実在しているのかしていないのかは不明であるが、決していないと断言することは出来ない

 

 

 

 

ロードナイツ

 

第三話−V

「紅き少女の一日」

 

 

 

 

「えーっと『身代わり魔法』…違う、『悪魔召還魔法』―――惜しい……『精霊召喚魔法』、う〜ん……何か違うかな?」

 

カノン学園図書室で紅い髪の少女は難しそうな顔をしながら本を選んでいた。

本を選んでは戻し、また手に取る。

中々目的の本が見つからないのか段々と表情が曇っていく。

……というより苛立ちに表情を歪めているだけのようにも見える。

 

「…………『魔法生物作成』? 違う、『守護獣召喚』……あった!」

 

少女の表情が一気に明るくなった。

どうやら求めていた本が見つかったようだ。

少女はその本を手に取ると図書室に備え付けてあった机に向かった。

そして本を開くと黙々と読み始める。

守護獣召喚魔法、それはある特別な条件を経て使用出来る限定魔法。

守護精霊、守護獣などの加護が付いた人間にのみ発動出来る魔法だ。

元来守護が付く人間は少ない。

例えば聖痕者、神に選ばれた人間にのみ印される代行者なる者。

例えば賢護者、賢者と呼ばれる大自然の保護をしている精霊魔法の使い手。

そんな特別な条件を満たしている人間にのみ、守護精霊や守護獣は宿る。

つまりは使える者が少ない、特別な魔法だ。

だからこそ、見つかりにくい場所に保管されていて他の人間があまり手に取らない本であった。

 

「……難しい、というより何この滅茶苦茶な魔法は」

 

暫くして少女の口から呆れたようなため息が洩れた。

確かに魔道書に記された魔法理論は無茶苦茶だと言わざる負えない。

まず第一に、自分の魔力を極端に減らさなければならない。

そして次に、身体を無気力状態にした後思考を空にする。

こんな魔法……現実の戦いで使えるとは思えない。

魔力を極端に減らすことは別に苦ではない。

元々この身体はそれほど魔力は保有していないようだ。

だから魔力の問題は、やろうと思えばすぐに実行する事は出来るだろう。

だが……その次が問題だった。

守護獣魔法を発動させる場面はどう考えても自分の生命が危ういときぐらいだろう。

なのに発動条件が無気力にした後思考を空にしろとはあまりにも無茶苦茶な賭だ。

その隙に攻撃されたらまともに避ける事すら出来ないだろう。

今までの経験上、こんな暇……与えてくれる敵なんて殆どいなかった。

やはり自分には向かない魔法、だけど―――これからの事を考えると必要技能になるかもしれない。

 

「まっ……それよりあの馬鹿が素直に言うこと聞くかどうかだけどね、問題は」

 

これは一種の賭だ、覚えたところであまり意味は無いかもしれない。

でも……"保険"はかけておくべきだろう。

まあ"あの馬鹿"が上手くやってくれればいいけど……イマイチ頼りない。

肝心な所は外さない癖にそれ以外に疎い、トラブルに好かれている体質だから。

だけど―――こんな事は口が裂けても言えないが、世界で一番頼りに出来る"人間"であることには間違いない。

昔の約束を思い出す、あの夕日の丘での一コマ。

自分が……初めて人間になれたと実感した日。

 

『………なのか、じゃあ俺がお前を――てやるよ』

『うん、それじゃあ私は――てみる』

 

あの約束は、多分今も守られている。

そして……これからも、最期の時すらも。

世界を破滅させる御子は、世界を破滅させる神子は、世界を破滅させる皇女は。

―――あの否定者に、全てを委ねようと思う。

それが契約、自分の運命を全て預けた決意。

 

「ふぅ……ちょっと休むかな」

 

数時間後、本を閉じた。

集中しすぎたのかもしれない、少し頭痛がする。

紅い髪の少女は軽く頭を振ると席を立ち上がった。

そして図書室から廊下出ると……目の前を通り過ぎた人物にぶつかりそうになった。

まるで芸のように沢山の本を抱えているのは少し筋肉質の角刈りの少年だった。

どうやら同い年ぐらいの生徒だろう、つまらなそうな顔をしながら早足で通り過ぎた。

 

「ねぇ……君」

 

少女はその少年に話しかけた。

すると少年は少々驚いたように振り返った。

顔立ちは……妥協点、言っちゃ悪いが普通だった。

まあそんな事はどうでもいい。

少女は作り笑顔を浮かべると、少年へ笑いかけながら続けた。

 

「ここら辺で一番近い訓練場って何処かな?」

「…………………………………………………惚れた」

「―――はっ?」

「い、いや―――何でもないっす!!!」

 

少年は顔を紅くしながら手を左右に振る。

その瞬間、大きな音が廊下に響いた。

……どうやら持っていた本を全て下に落としたようだ。

本は大切に扱いなさいよ……っと心の中で苦笑しながら表面上は満面の笑みを崩さない。

 

「お、俺は斉藤健二……二年生です!」

「は……はぁ、私は秋桜麻衣子―――あなたと同じ二年生」

「秋桜……麻衣子さん、良い名前だ」

 

…………なんだこいつは?

紅い髪の少女、秋桜麻衣子は軽くため息をついた。

どうでもいいから本題に入ってくれないだろうか?

麻衣子は額に浮かべた怒りを必死に隠そうと表面上の笑顔を維持する。

一般人、相手は一般人と心の中で唱え続けた。

これで違う学園の生徒、違う国の人間であったのなら麻衣子は我慢しなかっただろう。

だが流石に苦労して居着いたこの国を数ヶ月単位で出て行くわけにはいかない。

ここで魔法を覚えるまで、この国に留まると決めた。

ならば我慢しよう、こんな所で終わらせる何て馬鹿馬鹿しい。

 

「それで? ここから一番近い訓練場だけど……」

「決めました、麻衣子さん」

「…………聞きなさいよ、あんた」

「聞いてください、俺の決意を」

 

麻衣子の言葉を悉く無視しながら少年―――斉藤健二は続ける。

 

「俺は今でこそ序列8位の半端者だが……何時かはあなたの為に1位を取ります」

「………はぁ?」

「誓いましょう、あなたの窮地は俺の窮地―――俺の全生命を賭けてあなたを愛するとっ!!!」

 

瞬間―――麻衣子の堪忍袋の緒がブチ切れた音が響いたような気がした。

同じ学園の、ましてや同じ国の人間には手をあげないように我慢した。

……だけど、流石に限界だった。

麻衣子は笑顔を張り付かせたまま、右腕を振りかぶる。

そして、全力で目の前にいる少年へ向けて突き出した。

 

「そして俺達はこの世界の―――ぐほぉ!?」

「黙れこの馬鹿、いいから訓練場の場所を教えなさい!」

「は……はい、ここから真っ直ぐいった所に訓練場のプレートがかかった部屋があります」

 

腹をおさえながら少年は腕を真っ直ぐ伸ばし指さした。

麻衣子はその方向に目を向ける……成る程、あっちか。

そう言えば図書室に来る前にそんなプレート見た記憶が、忘れてた。

 

「ども、あんたも少しは人の話を聞くようにしなさいよね」

 

そう言い残し、麻衣子は軽く手を振って歩き始めた。

廊下には腹をおさえながら、しかし何処か幸せそうな顔をした少年が残されていた。

 

 

 

 

「おー、やってるやってる」

 

広い部屋で数人の男女がそれぞれ思い思いに訓練していた。

とある少年は魔道書を片手に魔力を滾らせており、周囲にはいくつもの氷の固まりが浮かんでいる。

とある少女は細い木の杖を手に持って目を瞑りながら詠唱を唱え続けている。

麻衣子も軽く彼らを眺めた後、自分も空いているスペースへと向かう。

守護獣召喚の基礎は覚えた、残るは実演のみ。

まあ、本当に基礎中の基礎しか知識を持っていない為使えるのは力のほんの僅かだけだろう。

だけど、そのほんの少しの力でさえ―――扱える自信は無い。

法術でさえ、自分は使うたびに身体に大きな負担がかかる。

これが本当に優れた素質を持つ法術士ならばそんな事もないのだろうが。

自分はその点において、あまり素質的には優れていないのだろう。

しかし、御子になる為の素質は十分あった……ただそれだけなのだ。

まあ……そんな事は今はどうでもいい。

麻衣子は思考を切り替えると深呼吸を始める。

魔法と法術は似ているようで違う。

周囲の魔力や環境を利用して、"巻き込む"のが法術である。

対して魔法は自分の魔力や法則を利用して、"巻き込まれる"ものが魔法である。

両者は似ているが、決定的な所で違う。

それに魔法は応用が利くが法術は単一でのものでしかない。

しかも扱い方を間違えれば命の危険が付きまとう術である。

とある国ではこの術を禁術とし、とある国ではこの術を宝術としている。

しかし魔法は違う、殆どの国で受け入れられている技能だ。

扱いを誤れば危険だが、法術ほどではない。

 

「……ま、だから気楽って言えば気楽よね」

 

軽く苦笑して、麻衣子は集中力を高める。

駆け出しの魔法使いの為、魔法発動には時間がかかる。

これじゃあ普段の戦闘で使えるはずもない、後衛に回れば何とか使えるレベルだ。

だけどそれじゃあ満足出来ない、自分が必要としてるのはこれからの戦いに必要な技能。

付け焼き刃には用がない、完全にモノにしなければ使いようがない。

 

―――"闇夜を照らす業火と成れ、ファイヤーボールッ!!"

 

手の平に小さい火の玉が発現する。

しかし……小さすぎて今にも消えそうな灯火だ。

初級魔法といえど今の麻衣子には扱いが難しい。

重量、質量、魔力量、密度、温度……他にも計算式は山ほどある。

それを瞬時に思考しなくては魔法は使えない。

わかってはいる……が、やはり難解な事は一朝一夕では身に付かない。

だが―――"これ"をさも当たり前のようにこの学園の生徒達はこなしている。

流石に、魔法使いの頂点とも呼ばれるカノンの生徒。

この国では出来て当たり前の事が、こんなにも難しいこと。

 

「―――くっ」

 

小さき火が揺れる、まるで風が吹いたように。

維持する間にも魔力を消費していく。

魔法は発するより待機させる方が大変だ。

それ故に……今麻衣子がしている行為は初心者にはハードルが高い技法だ。

待機させている間に麻衣子の魔力は段々と消費していく。

 

「……あー、だるい」

 

麻衣子は苦笑しながら冷や汗を流す。

魔力が無くなるのは段々と体温が下がっていくのと同じような感覚がする。

全ての魔力が無くなればどうなるのか知らないが、元より考えたくもない。

背筋がザワザワっと音を立てる、嫌悪感が滲み出てくる。

思考が段々と単純化していき苛立ちが募る。

―――自然と舌打ちが多くなる、だが手の平に残る炎を必死に維持する。

ここでやめるわけにはいかない、何故なら……これは必要な事だから。

暫く続けると、すぐに底が見え始めた。

流石に魔力容量"最低"ランク、初級魔法でも簡単に魔力を持って行かれる。

まあ……元より法術を使うために身体を変質させてしまっているのだから仕方ない。

残りカスといえども魔法を扱えるだけあれば十分だ。

 

「はぁ……はぁ……はぁ〜っ!」

 

荒い息が麻衣子の口から洩れる。

先程まで冷や汗程度の汗だったものが、今では身体中滝のように流れ落ちていた。

そろそろか……麻衣子は残る魔力を感覚で確認する。

麻衣子は軽く息を吐くと手に灯した火を掻き消す。

 

「これで……どうよ……」

 

魔力は極限まで減らした、これで第一条件はクリアした筈。

疲労感が溜まった身体を何とか支えて汗まみれの髪をかき上げた。

そして乱れた息を整える為に深呼吸を数回。

心を整える、身体の力を抜き―――目を瞑る。

暗闇に包まれる、世界に色が無くなった。

 

「―――"我を守護する聖なる化身、我に力を我に盾を……今一度の力を示し真なる姿を顕現せよ!!"

 

詠唱を唱えきる、残り少ない魔力を総動員して守護なる獣を召喚する。

……出来るのか、などとは考えない。

出来ることは確信している、だから―――迷わない。

 

「―――"ヴァッフェリヒターツェーレン"

 

瞬間―――訓練場の内部に巨大な爆炎が広がった。

 

 

 

 

「―――あぁ、理解できるよ、ヤハウェ」

 

山脈が連なる忘れられた大陸の頂上、そこに小さな城が存在していた。

そして、その玉座に座るのはまるで黒天鴉のような黒い髪を靡かせた長髪の男だった。

頭には金色の髪飾りをつけ、背中には漆黒の翼が六枚生えていた。

容姿はまるで蝋人形のようにスラリとしており凡そ人のようでありながら人だとは思えないような美しさがあった。

彼は玉座に座りながら感覚を広げ、まるで千里眼のような範囲で世界中を眺めていた。

見つめる先にいるのは彼の長年追い求めた唯一の者。

 

「あぁ―――早く貴女の傍に参りたい、貴女に逢いたい」

 

翼を持つ男は恍惚に表情を歪めると身震いするように両手で身体を包み込む。

本当に……本当に待ちわびた。

刻は近い、後たった100年未満でその刻が来る。

―――何千年、何万年待ち続けたことか。

気が狂いそうになった事もある、全てを破壊し尽くそうかと思った事もある。

だが、万が一にも……嫌われたくない。

 

「あぁ……我慢できないよ、早く―――早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早くっ!!!!!」

 

今すぐにでもこの窓を飛び出て飛んで行けたらどれだけ良いことだろうか?

一分でも一秒でも刹那でも瞬間でも―――早く、速く。

刻が近い、待ち受けるのは素晴らしき一時。

時に厳しく、時に優しく、時に切なく、時に悲しく、時に恐ろしく。

どんな表情も覚えている、どんな感情も覚えている、どんな仕草でさえ感じ取っている。

追い求める貴女の全てを自分は記憶している。

でもまだだ、全てを追い求めるのはまだ早い。

ここで全てを崩壊させるわけにはいかない。

 

「あぁ、我慢だよ我慢、貴女に嫌われたくない貴女に呆れられたくない貴女に―――貴女の寵愛が欲しい」

 

だから―――彼は自分の長く伸びた爪を身体に食い込ませる。

一筋の血が流れ落ちる、その血は赤く……鮮やかに輝いていた。

痛みは感じない、感じるのは自分を戒める快感にも似た抑止。

これは貴女の拘束、苦痛など感じず悦びさえ覚える。

 

「あぁ……貴女に逢ったらどうしようか、最初に―――そうだ……貴女に付いている害虫を殺そう」

 

そうだ、そうだそうだそうだそうだそうだ。

あの方には害虫が付いている、早く除去しないと大変な事になる。

だけど―――今手を出すことは出来ない。

審判まで待たなければいけない、まぁ……どちらにせよ今後戦う事になるのだから焦る事も無い。

その時に殺す、絶対に抹殺する、必ず滅殺する。

 

 

「あぁ―――ヤハウェ、我が絶対の神……お待ちしています、数年でも数百年でも、貴女の為ならば何時までも」

 

 

to be continue……

 

 

 

 

 

 

あとがき

へ、変態だーーーー!?(AA略

いやもう何か書いてる途中に自分まで変な気分に(マテマテ

といいますか最近キャラが勝手に動くのですが、何故?

プロットと違う動きをされると困りますよ、役者さん(汗)

あれですか、これが世にいうキャラクターが生きたって事なんでしょうかね?

 

 

 

―――第二部・第三話−V★用語辞典―――

 

取りあえず休憩中